機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第9回は「これからの設計者の在り方」をテーマに筆者の考えを述べる。
前回は、新人エンジニアの皆さんに向けた筆者(3D推進者)からのメッセージをお届けしました。
この春から、社会人としてエンジニアの道を歩み始めたばかりの方々もいれば、これまでの職場から異動や転職、独立などを果たし、新たな環境でエンジニアの仕事を続けている方々もいることでしょう。
筆者自身も約35年間、機械装置産業の設計者/エンジニアとして、また3D推進者として歩んできましたが、2024年4月から製品設計も行う新しい職場での挑戦が始まりました。新しい職場での経験はとにかく新鮮であり、また筆者が設計者として歩み始めたばかりのころに体験したことを再び学ぶ機会にもなっており、設計の奥深さを日々感じています。そして、新しい環境に身を置き、これまで以上に設計者の在り方やこれからの日本のモノづくりについて深く考えるようにもなりました。
そこで、今回から数回に分けて「これからの設計者の在り方」をテーマに、筆者の経験を振り返りつつ、その考えを述べていきたいと思います。
筆者が若手と呼ばれていたころ、設計室は製図台に向かい設計を行う場所であり、当時は「ドラフター」(※注1)を使って紙に2D図面を描いていました。
※注1:「ドラフター」とは……アーム式の設計製図機械のことで、1953年に武藤目盛彫刻(現:武藤工業)が日本で初めて製造、販売した。ドラフターという名称は、MUTOHホールディングスの登録商標になっている。
筆者が働いていた設計室では“コの字”にドラフターが配置され、描かれている図面は誰もが見える環境でした。いつでも図面を見ながら(見せながら)確認や議論が行えたため、チーム設計には最適でした。また、経験の浅い若手設計者が先輩の図面を見て学んだり、自分の図面を見せつつ先輩から直接指導してもらったりなど、技術継承が自然と行われていました。設計部内のインフォーマルデザインレビュー(※注2)も必要に応じてドラフターの前で実施されていました。
※注2:「インフォーマルデザインレビュー」とは……営業や保守を含む多くの関連部門や経営層などが参加する全社横断的なデザインレビューではなく、設計過程での品質向上を目的に、設計部内だけで実施されるデザインレビューのことを意味する。
今とは異なる“アナログな時代”でありながらも、進捗(しんちょく)中の設計情報は設計室内のドラフター(紙の2D図面)で共有されていたといえます。その後、2D CADが普及し始めると、設計者はドラフターに比べてはるかに小さいディスプレイに向かって設計を行うようになりました。その結果、他の設計者の図面を見る機会が極端に減り、「隣の設計者が何の設計をしているか分からない」ことさえ起こり得ました。そして、設計室内でのリアルタイムな情報共有がしづらくなっていきました。さらにその後、ディスプレイ越しに設計作業を行う環境は2D CADから3D CADへと変化していきますが、技術継承や情報共有の在り方は古き良き設計環境の方が勝っていたように感じます。
もちろん、CAD化によって「設計の仕事のやり方」は大きく変化しました。2D CADでさえも、コンピュータ化により効率的に図面を描くことが可能になりました。また図面の再利用も容易にできるようになり、そのまま流用することや、一部を編集した流用設計を行う頻度が多くなりました。このようにCAD化によって、設計の効率化が図られるようになりましたが、同時に、設計者は次のような問題に直面しました。
一方、こうした問題点や不都合な面ばかりに目を向けるのではなく、それらを改善して、もっと便利に使っていこうと、次のようなことを考える人たちも現れてきます。筆者もそんな一人でした。
ドラフター全盛期の時代は手描き図面の不便さから、何とか合理的な設計ができるようにと標準化が進められてきました。一方、手描きと比べて自由度が格段に向上した2D CADの時代になると、設計成果物のバリエーションが急激に増えていきました。その結果、当時2D CADの運用/管理を任されていた筆者は「誰もが同じような製品の設計を、同じように設計できるようにしたい」と考え、これまで培ってきた設計情報(ナレッジ)の共有、情報の可視化、設計標準化の必要性をより強く感じるようになりました。
そして、3D CADの推進を任されるようになると、その思いはさらに高度なものとなり、PDM(Product Data Management/製品情報管理)やCAE運用、社内一気通貫システムとしての3Dデータ活用へと進化していきます。ただ、実現したいことがより高度なものになったとしても、その原点にあるのは設計の考え方であり、設計ルールとCAD操作の両面での標準化が求められます。
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