初心者を対象に、ステップアップで「設計者CAE」の実践的なアプローチを学ぶ連載。詳細設計過程における解析事例を題材に、その解析内容と解析結果をどう判断し、設計パラメータに反映するかについて、流れに沿って解説する。第1回は「構造物の強度解析」について取り上げる。
設計の妥当性を検証するために、「設計者CAE」は必須のものとなりました。設計者CAEは、今や「電卓代わり」といわれてしまうようなものではなく、「高機能、高精度なものをカジュアルに運用できるものに変わった」といえます。筆者が解析に携わるようになった10年前も、そして今日も、「設計者CAE」という言葉が使われ続けています。また、設計者CAEは「解析専任者」とよく比較される存在でもあります。
機械設計者である筆者は、解析を導入し、自身で運用する中、「設計者CAE寄りの解析担当者」として業務に携わっています。筆者が掲げる解析の目的は「解析結果に基づく設計の妥当性検証と、設計へのフィードバック」です。設計者CAEは詳細設計時に行うことが多いので、設計者がその解析結果を待っていられる時間はそう長くありません。ですが、正しくない解析を実施してしまうと、「解析精度」はもちろん、「解析結果から得られる設計の方向性」さえ導き出すことができません。
では、正しい設計者CAEを行うには何が必要でしょうか。筆者は、
の3つだと考えます。
設計者CAEを実践する上で、対象となる装置やその構成部品に対する知識は不可欠です。その知識を得るためには、座学だけではなく、設計経験も必要です。「見たこともない」「その装置や他の装置の設計経験もない」という人が、その装置の挙動を理解することはできません。知らぬままでは、「自分(設計者)が、得たい成果物(パラメータ)は何なのか」を理解できるはずもなく、得られた解析計算結果を見て「この結果が正しく事象を表しているのか」の妥当性を検討したり、その結果から設計へのフィードバック行ったりすることもできません。この設計力というものは、設計の知識と経験によって培われます。筆者は設計者CAEの実践において、この設計力を重要視しています。
設計者にとって重要な要素として知られるのが「KKD:勘/感覚、経験、努力/度胸」です。勘は、天性のものがスタートにあります。デジタル化が進み、この勘でさえも共有できるようになればよいのですが、残念ながらそれ以前に「設計者の向き、不向き」もあります。勘は、経験によってさらに磨かれていきます。努力は、失敗体験を成功体験に導く糧となり、これもまた経験によってその体験を重ねることができます。
しかし、KKDだけで設計を行ってきた人の中には、明らかに工学知識が欠けているケースも見られます。新入社員の疑問に対して、論理的に説明することができますか? 設計者としての経験値は重要です。その経験によって得られた設計パラメータは存在します。ですが、その経験によって得られた値を証明する「エビデンス(証拠・裏付け)」に欠けることが少なくありません。工学知識とは解析の「原理・原則」といえます。設計者CAEを行う人の中には、この部分に弱点を抱えているケースもあります。正しく解析を行うためには、工学知識が欠かせません。そして、解析対象の装置などで起こり得る事象は、工学知識、そして実体経験の2つが結び付いて、はじめて解明できるのです。
解析システムを使用する上で、その運用知識も問われます。解析システムが用意するウィザード形式で設定を入力していく方法はとても便利ですが、その入力値の意味や条件などを理解することは、「解析精度の向上」や「時間的パフォーマンスに優れた解析」の助けになります。また、解析の目的に応じた設定方法や、解析システム自体の特徴について理解することも重要で、これらもまた知識と経験によって蓄積されていきます。
設計者CAEに必要な知識は、図3のように体系化できます。筆者も初めて経験する事象についての解析では、参考文献を調べたり、社外のサポートを受けたりすることもあります。こうしたことの繰り返しが、自身の知識や経験となり、設計者CAEを実践する上での「引き出し」を増やしてくれます。
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