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» 2022年06月20日 07時00分 公開

ランドリー(洗濯機)を題材に音振動の低次元化モデリングを考える1Dモデリングの勘所(8)(1/3 ページ)

「1Dモデリング」に関する連載。連載第8回では音振動のモデリングの事例として、ランドリー(洗濯機)を取り上げる。まず、ランドリーとは何かを機能と構造の視点で考える。その後、音振動の伝達経路、ランドリー固有の要素を説明し、ランドリーの1D振動モデルを示す。また、振動数が変化する外力のモデリング方法とゴムのモデリング方法を紹介する。これらを踏まえ、ランドリーの振動モデルを構築、定式化、解析し、最後に音の1Dモデリングに言及する。

[大富浩一/日本機械学会 設計研究会,MONOist]

 今回は「音振動」のモデリングの事例として、ランドリー(洗濯機)を取り上げる。主に振動のモデリングについて説明するが、モデリングする前に、その基本構造を基に、ランドリーとは何かを「機能」と「構造」の視点で考える。これを受けて、音振動の伝達経路、ランドリー固有の要素について説明し、ランドリーの1D振動モデルを示す。ランドリーの特徴として、脱水時に回転数(振動数)が時間とともに変化すること、減衰要素としてゴムが使用されている点が挙げられる。そこで、振動数が変化する外力のモデリング方法とゴム(粘弾性体)のモデリング方法を紹介する。以上を踏まえて、ランドリーの振動モデルを構築、定式化、解析する。最後に、音の「1Dモデリング」に言及する。

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ランドリーの「機能」と「構造」

 図1に、ランドリーの基本構造を示す。水槽(静止)の中に回転槽があり、水槽と回転槽の間に設置されたモーターにより、回転槽は回転する。洗濯時には低速で回転数を正逆方向に繰り返すことにより汚れを落とす。脱水時には高速回転させることにより、遠心力で水分を除去する。水分は水槽で受け、排水される。水槽前面には、洗濯物を出し入れするための開口部があり、水分が外部に出ないようにゴムシールで密閉されている。また、回転槽には回転によるアンバランス力を低減させることを目的とした液体バランサーが装着されている。洗濯槽(水槽と回転槽)の上部は吊りばねで、下部は支持ばねと防振ゴムで支えられている。ゴムシールも一部、洗濯槽の荷重を受け持つ。ここでは、振動が問題となる脱水運転時を中心に考える。

ランドリーの基本構造 図1 ランドリーの基本構造[クリックで拡大]

 モデリングを行う前に、そもそもランドリーとは何をするためのもので、そのためにどのような構造から構成されているのかを考える。これには、ランドリーの機能(何をするためのもの)と構造を明示化することが役に立つ。この明示化されたものを「機能構造マップ」と呼ぶ。図2にランドリーの機能構造マップを示す。慣れ親しんだ製品であっても、原点に戻って、機能構造マップを作成することにより、新たな気付きや抜けの防止につなげられる。なお、機能構造マップは目的によって異なるので、自分が納得できるマップを作成することが肝要である。

ランドリーの機能構造マップ 図2 ランドリーの機能構造マップ[クリックで拡大]

 図2の機能構造マップを基に、ランドリーの音振動の伝達経路を表現したものが図3である。赤色の点線で示した部分がランドリー本体で、実際にはランドリーは床に設置されるので、床の構造も振動に影響する。多くの場合、ランドリーは洗面所などの密閉空間に設置されるので、音はランドリー本体を起点に密閉空間内に伝搬される。

音振動の伝達経路 図3 音振動の伝達経路[クリックで拡大]

 図4に、ランドリー固有の要素である液体バランサーの原理を示す。液体バランサーは回転槽の外周部に設けられた空間に、液体(できるだけ比重の大きい)を充填(じゅうてん)したものである。図に示すように、回転槽の回転数ωが系の固有振動数ω0よりも低い場合には、液体バランサー内の液体はアンバランス(洗濯物)と同位相にあり、振動は増えてしまうが、回転数が系の固有振動数よりも高くなると、液体は洗濯物と逆相に移動し、振動を低減する。これが液体バランサーの原理である。従って、できるだけ系の固有振動数を低くして、瞬時に共振点を通過する必要がある。

液体バランサーの原理 図4 液体バランサーの原理[クリックで拡大]

ランドリーの1D振動モデル

 図1および図2から、ランドリーの1D振動モデルは図5となる。外力はアンバランス量Δmにアンバランスの半径距離r、回転数の2乗ω2、cos(ωt)を乗じたものとなる。実際には、回転数は時間とともに変化するが、この表現法については後述する。吊りばねとゴムシールはそれぞれ筐体側部に、防振ゴムは筐体下部に接続されているが、ここでは、筐体は剛体と考えるので、1D振動モデルは図5右図のように表現される。なお、ここでは設置場所(床)の影響、液体バランサー、アンバランス量の時間変化については考慮しないことにする。

ランドリーの1D振動モデル 図5 ランドリーの1D振動モデル[クリックで拡大]
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