「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

自動運転車が選手村で接触事故、豊田社長が語ったことは自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)

» 2021年08月28日 08時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
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 「自分自身がドライバーであるが、自動運転はまだ私のレベルには到達していない。初心者にしてはうまいレベル、というのが自動運転の現在の実力だ。普通の公道で普通に走るのは、まだ現実的ではない。選手村は特殊な環境で、走るルートも決めた上で実証実験もかねて走らせていた。今回、過信があったとすれば、横断歩道の手前で一時停止した後の手動運転の部分だ。パラリンピックで身体の不自由な人がいることを前提にした対応ができていなかった」(豊田氏)

 選手村でイーパレットの運行を再開するには、警察と大会組織委員会の2者の判断を待つ必要があります。「再開に向けてやることを聞かれたら、手動運転中の安全を徹底する。また、EVで走行音がしないので、今よりも2倍程度の大きな音を出せるようにして注意喚起する。誘導員との連携も強化したい」(豊田氏)とのことです。

 また、豊田氏は自動運転車のルールづくりについても言及し、「自動運転車の責任の分担が自動車メーカーにあるのか、オペレーターにあるのか、まだ事例がない。安全はクルマだけでなく、インフラとクルマをつくる人、使う人が三位一体で進めていく必要がある。事故を起こした今、トヨタが言える立場ではないかもしれないが、『安全な交通流をつくりたい』『事故をゼロにしたい』という思いは一貫しているので応援していただきたい」と語りました。

事故を冷静に受け止めて

 「自動運転車の事故」とメディアが騒ぐと、身構える自動車業界の方々もいると思います。過度に慎重になった関係者が現れて、あらゆる取り組みにストップをかけるかもしれません。安全のためにと長年進めてきた自社の取り組みが誤解されたり過小評価されたりする懸念もあるでしょう。そうならずに、冷静に今回の事故を分析し、同じ事故を繰り返さないための教訓が自動車業界の中で共有されてほしいと思います。

 事故を受けて自動運転技術の開発をやめないことは、被害者を軽視することとイコールではありません。被害者は車両と接触するという不安とショックを伴う出来事に遭遇しただけでなく、負傷し、4年に1度のパラリンピックへの出場を見送りました。パラリンピックを諦めた悔しさや事故の恐怖は、いかばかりかとお察しします。しかし、今回の件に限らず、当事者以外の人間が被害者に過度に感情移入したり、加害者を攻撃したりしても仕方がありません。事故は加害者と被害者が法律に基づいて決着をつけるしかないからです。

 ただ、今回の事故はクルマを買ったどこかの誰かの運転ミスによるものではありません。主語は自動車メーカーです。トヨタ以外の自動車メーカーは直接の当事者ではないけれども、同じように自動運転技術を開発する立場です。一般のドライバーは交通事故の当事者について詳しく知る機会がありませんが、トヨタとトヨタ以外の自動車メーカー、自動運転に関わるサプライヤーはその気になれば詳細に情報を共有し、協力して対策を練ることができます。交通事故のニュースを見て一般のドライバーがわが身を振り返り気を引き締めるようにして、自動運転技術の開発も続くべきです。

トヨタイムズ放送部 8月27日配信分(クリックで再生)

→過去の「自動車業界の1週間を振り返る」はこちら

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