「CEATEC JAPAN 2017」で行われた自動運転技術に関するカンファレンスに、滋賀医科大学 精神医学講座 講師の松尾雅博氏が登壇。「生理機能障害としてのヒューマンエラー:睡眠障害・認知症との関連から」というテーマで講演し、医学的な立場から睡眠や疲労、認知症が自動車事故に及ぼす影響などを紹介した。
「CEATEC JAPAN 2017」(2017年10月3〜6日、幕張メッセ)で行われた自動運転技術に関するカンファレンスに、滋賀医科大学 精神医学講座 講師の松尾雅博氏が登壇。松尾氏は精神科医であり、生理学や臨床学が自動運転にどう役立つかを研究している。
同展示会では「生理機能障害としてのヒューマンエラー:睡眠障害・認知症との関連から」というテーマで講演し、医学的な立場から睡眠や疲労、認知症が自動車事故に及ぼす影響などを紹介した。
飛行機を例にとると、離陸・着陸時などの操作を行うための手技が難しい時に事故が多いといわれている。複雑な手技をヒューマンインタフェースの改善などによって単純化することで、事故率は低下した。ただ、デバイスの進化だけでヒューマンエラーは防げるものではないようだ。
米国連邦航空局のデータでは、事故にならないだけでエラーは発生しているのだという。最もエラーが多いのは離陸前だ。急ぐということがその要因で、「Hurry up syndrome」として知られている。出発前の手続きで「急がないと」と焦る心理要因によるエラーには、対応する方法が確立されていない状況だ。
自動車事故でも同じく、米国運輸局は交通事故の94%はヒューマンエラーによるものだと報告している。「クルマの信頼性や安全性は向上しているが、最後に事故を起こすのは人間だといえるのではないか」と松尾氏は指摘する。
人間の事故を起こしてしまう特性は「認知機能」に端を発する。認知機能は、見て、ものを考えて判断するなど、さまざまな心理機能を含んだ概念だ。認知機能に影響を与える要因としては眠気や疲労、認知症、注意力の低下などがある。
睡眠は2つの要素(two−process model)によって構成されており、長時間眠ったから眠くならない……という単純な仕組みではない。1つは体内時計(Circadian Process、Process C)によって影響される。夜に眠くなり昼に覚醒(かくせい)するという視床下部の機能で、時刻調整がしにくく、時差ボケの原因にもなる。もう1つは覚醒時間(Sleep Process、Process S)で、覚醒し続ける時間が長くなれば長くなるほど眠気がたまるというものだ。
眠気を強くする要因は、覚醒時間が続く徹夜や夜更かしの他に、睡眠時随伴症や睡眠時無呼吸症候群などがあり、これらが交通事故につながる。眠気が強くなると、30秒程度の瞬間的な眠りである「マイクロスリープ」や、脳の一部が睡眠状態になることもある「ローカルスリープ」が生じることも分かってきた。また、睡眠不足はアルコールと同程度に認知機能に影響を与えるとみられ、20時間程度の連続覚醒は「ほろ酔い」と同じぐらい運転のパフォーマンスを低下させるという結果もある。
ローカルスリープは、ネズミを使った実験で、運動野(※1)と前頭葉のどちらかが寝てしまうという結果が分かっている。この状態だと何が起きるかというと、ネズミの前にチーズを置いた時、前頭葉が起きているとチーズに手を伸ばそうとするが、運動野にローカルスリープが起きていると動けないという失敗を起こす。人間の場合は交通事故が起こりやすくなるという。
(※1)運動皮質ともいう。大脳皮質の一部。表面を電気などで刺激すると筋肉収縮を起こす部分
体内時計によってエラーの頻度が変わってくる。しっかり眠って自覚的な眠気がなくても、夜は昼間に比べてエラーが増える傾向がある。
睡眠だけでなく疲労も運転技能に大きな影響を与える。過重なストレスが運転に与える影響について、仕事の呼び出しが続いた医師を対象に運転状況を調査したところ、運転技能はストレスの影響を受けることが分かった。
具体的には「レーンのはみだしは少ないが、スピードのコントロールが異常に下手になる。特に非常に頻繁に呼びだされた時は、ストレスが長く続き、飲酒以上に運転技能に影響を与える」(松尾氏)としている。過労で運転技能全般が低下することはないが、ハンドルさばきやスピード管理は疲労の程度に比例して影響を受けるようだ。
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