現在、自動車業界は、自動運転技術、コネクテッドカー、モビリティサービスなどの次世代技術による大きな変革の真っただ中にある。本連載では、これら次世代技術に焦点を当てながら、自動車が未来のモビリティへ移り変わる方向性を提示していく。第1回は、自動運転技術の導入がどのように進むかについて分析する。
最初に自動運転の目的について考えてみたい。
そもそも、なぜ、世界各国の大手自動車メーカーがこぞって自動運転技術を開発しているのだろうか。現状、その目的は2つに大別できる。
1つは「安全で快適な車両の提供」だ。自動車が関係する交通事故のうち90%は人的ミスが占めるといわれている。自動運転技術は、この人的ミスを低減することができる。自動車メーカーは自動運転技術によって、消費者に「安全な車両」という価値を提供できるわけだ。また、高速道路での長距離移動など、車間距離を維持しながらの走行を支援する「アダプティブクルーズコントロール(ACC)」があれば、運転ストレスの少ない「快適な車両」の実現につなげられる。
ただし、現在の自動運転のトレンドには、いわゆる「ブーム(一過性の流行)」が混在している。「自動運転」の目的である人的ミスの低減、すなわち「安全な車両」は今後も続く基礎的なトレンドとみているが、付加価値となる「快適な車両」は一種過熱したブームに近いものがある。この2つが同じレベルで語られているのではないだろうか。
例えば、1970年代にスーパーカーがブームになった時は、エンジン性能が高く、馬力のある自動車の開発を自動車メーカーが競い合った。しかし、スーパーカーのような「極端に加速のよい自動車」は付加価値ではあるが、本来的な自動車の技術進化のトレンドとは言いづらい。何が「トレンド」で何が「ブーム」なのかを整理しないと、世界の自動車メーカーやサプライヤーなどが主張している内容の本質を見失ってしまう。
もう1つの目的は「新しい交通システムの創造」である。人手不足により公共交通が確保できなかったり、コストの観点から過疎地で統廃合されたりした交通に代わる「交通弱者の救済手段」である。維持困難な赤字路線に替わる新公共交通サービスというわけだ。また、完全自動運転車が規則に従って運転すれば、スムーズに運行できる(と期待されている)ことから、交通渋滞解消の手段としても注目されている。
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