ひとことで自動運転といっても、その言葉の定義は自動車メーカーや調査会社ごとに異なる。ここでは、筆者が所属するIHS Markitが利用している、米国自動車技術会(SAE:Society of Automotive Engineers)がレベルによって分けた定義を基にその内容を見ていこう。
SAEは自動運転の定義を「自動化(Automated)」と「自律化(Autonomous)」に大別している。後述するが、自動化に当たるのがレベル1〜3、より自動化が進んだ自律化がレベル4と5になる。最近の報道では、高速道路などで部分的な自動運転が可能なレベル3や、完全自動運転車と呼ばれるレベル4、レベル5が話題に挙がることが多い。
だが、最初に注目してほしいのは「予防安全」と定義されている「レベル0」だ。ここには「自動緊急ブレーキ」や「横滑り防止」「車線逸脱警告」などが包含されるが、これらはレベル1〜3の自動化には含まれていない。
SAEが定める自動運転とは「ドライビングタスクに対して継続的にシステムがコントロールするもの」だ。「自動緊急ブレーキ」や「横滑り防止」は、事故を未然に防止したり、事故のインパクトを軽減したりする「予防安全(アクティブセーフティ)」に関する機能であり、自動運転ではない。
実は、最初に挙げた「自動車事故を減らす」という自動運転技術の目的から鑑みれば、最も進化が望まれるのはレベル0の機能である。そのためか、レベル0の機能も「自動運転」としている自動車メーカーやサプライヤーも少なくない。実際に、一部の自動車メーカーは「自動緊急ブレーキ」をレベル1と定義している。
多くの人はこうした定義分けを意識しておらず、全てを「自動運転車」と認識しているだろう。しかし、例えば経済産業省や国土交通省が普及推進している「セーフティサポートカー」は、安全運転を支援する機能を搭載した自動車であり、その機能はSAEではレベル0に区分される。
レベル0の次の段階、「自動化」に分類されているのがレベル1〜3である。自動化は単に運転操作を自動化するだけではなく、システム制御が不可能になった時に、いつでも運転者が運転操作をできる必要がある。例えばEUの場合、自動化の機能であるACCを利用していても、システムが制御不能になった場合に4秒以内に手動運転に切り替えられるようにすべきであるという議論がされている。
レベル4とレベル5は「自律化」だ。運転者が運転にまったく関与しない「完全自律ドライバーレス」の状況を想定している。自動運転中のクルマの中で会議をしたり映画をみたりといった“未来像”は、レベル4/レベル5の段階だ。この完全自動化が実現できれば、先述の「安全で快適な車両の提供」と「新しい交通システムの創造」という2つの目的が達成できると期待されている。
一方で新たな議論もある。それはドライバーレス車の増加による「レイジードライバー(怠けた運転者)」の出現だ。運転中に寝るなどの行為が増えれば、人的ミスの事故は低減できたとしても、新たなリスクが発生する可能性がある。実は、自動運転車がどのような進化を遂げるのかは、未知数だ。なぜならなら、そうした自動車はまだ公道を走っていない。当の自動車メーカーですらどうなるかは分かっていないのだ。
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