一方、テレマティクスモジュールの新車装着率はどうだろうか。自動運転のレベルを高めていくには、車両をIoT(モノのインターネット)化するためのテレマティクスモジュールの搭載が必須となる。しかし、日本ではオプション装備としてテレマティクスモジュールを導入するユーザーは極めて少ないのが現状だ。
欧州では2018年4月から車両緊急通報システムである「eCall」の搭載が義務化される。そのため、2017年から新車装着率は急速に伸びると予測されている。また、米国では運転情報を利用して保険料を算出する「テレマティクス保険」や盗難防止(追跡)、車両自己診断、位置情報サービスなどの「コネクテッドサービス」が多数存在しており、そのためのテレマティクスモジュールが普及している。
これらに対して日本ではテレマティクスモジュールの装着率は低い。日本でテレマティクスモジュールが一定以上普及するのは、2020年以降になると予測されている。
日本でテレマティクスモジュールが浸透していない理由は「需要がない」からだ。日本でもテレマティクス保険の販売は始まっているが、北米のようにテレマティクスモジュールで取得した運転状況によって保険料金が大幅に下がるわけではない(これは、北米と比べて、日本の自動車保険の初期価格が安価だからこそなのだが……)。さらに日本は、盗難リスクも北米や南米と比較して低い。こうなると、現時点においては保険料削減を目的にテレマティクス保険に加入する人はほとんどいないだろう。つまり、日本の消費者にとってはテレマティクスモジュールを搭載するメリットがないのである。
とはいえ、テレマティクスモジュールは、自動運転のもう1つの目的である「新交通システムの創造」という観点から言えば必須の機能である。例えば、無人運転の鉄道である「ゆりかもめ」は、遠隔監視/遠隔制御によって安全を確保している。もし、遠隔監視/遠隔制御ができない無人の乗り物で事故が起こったらどうなるのか。乗客は、何時間/何日も放置されることになりかねない。そして当たり前だが、乗客は安全が確保されていないものには乗りたくない。無人運転車両が普及するためには、テレマティクスモジュールによる車両のIoT化がどこまで進むかにかかっていると言ってよいだろう。
しかし、ここで新たな課題が発生する。それは「テレマティクスに関わるコストは誰が負担するのか」ということだ。「自動運転は、自動車が消費者に与える価値。だから、その機能のコストは消費者に負担してもらう」という考え方もあるだろう。そのコストがいくらになるのかは未知数だが、消費者が全てを負担できるような金額ではないことは確かである。
例えば、完全自律のドライバーレス車には、センサーとして3DのLIDAR(Light Detection and Ranging)が必要といわれている。そこから収集される情報をリアルタイムでクラウドに上げると、どのくらいのデータ量になるのか。インテル(Intel)は、1台のドライバーレス車が1日に生成するデータ量は4TBに達すると予測している。このデータ量は、小規模なスマート工場が生成する1日のデータ量と同等だ。そのインフラ整備やデータ処理にかかるコストは誰が負担するのか。その議論は十分にされていない。
自動運転車は最新の技術ということで注目を集めている。しかし、自動運転車にかかるコストや法整備(制度設計)についてはその対応が後手に回っているのが現状だ。そこで次回は、「コスト」と「制度設計」の観点から、自動運転車の将来について解説する予定だ。
松原 正憲(まつばら まさのり) IHS Markit シニア オートモーティブ テクノロジー アナリスト
1964年生まれ。前職は外資系半導体メーカー、EMSなどに勤務。IHS Markitでは、テクノロジー部門で主に車載エレクトロニクス関連のサービスサポート経て、2016年から自動運転車関連技術のアナリストに従事する。さまざまな業務で蓄積した半導体からシステムレベルの幅広いノウハウ、知識から分析、課題解決をサポート。
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