ウーバー(Uber)に代表されるライドシェアやカーシェアは「MaaS(Mobility-as-a-Service)」として、世界各地で急激に市場を拡大している。日本でも、間もなくMaaSの本格導入が始まる可能性が高い。このMaaSに対して日本の自動車業界はどう対応するのか。決断の時が迫っている。
「第45回東京モーターショー2017」の公式併催イベントとして今回初めて「Future Mobility Summit」が開催された。同イベントは、2017年10月24日の日本自動車工業会が主催する「Day 1」と、10月27日のNTTドコモや自動車メーカー各社が登壇する「Day 2」との2日構成となっている。本稿では、モビリティサービスの今後について議論されたDay 1の中でも「モビリティのシェアリング」などを含む「MaaS」の動向を中心に取り上げたい。
MaaS(Mobility-as-a-Service)とはすなわち「移動のサービス化」を意味する。つまり、A地点からB地点に移動するにあたり、さまざまな交通手段を活用して最適な行き方を提案してくれるというもので、もともとはフィンランドのプロジェクトから始まっているとされる。
しかし現在では一般名称化しており、MaaSの中にはライドシェアやカーシェアも含まれるようになっている。またこれらのシェアリングを自動運転にて実現すべく、さまざまな企業が同市場への参入活動を活発化している。
世界の多くの都市や自動車メーカーは、都市化対策としてMaaSへの取り組みを強化している。というのも、2050年には世界人口の70%が特定の主要都市(メガシティー)に集中するといわれており、交通手段の提供や渋滞緩和、ラストワンマイル(公共交通手段をおりてから目的地までの移動)への対応、環境対策などさまざま問題が発生すると予測されている。
さらに、都市化に加えて、世界的な少子高齢化により自動車の販売台数は大幅に落ち込むとみられている。これらのことからも、特に欧州の自動車メーカーはいち早くMaaSに取り組んでおり、またここ数年の間で米国の自動車メーカーも本腰を入れ始めたというところだ。
日本でも最近MaaSという言葉が取り上げられるようになった。ただし世界のトレンドとは異なる。世界は都市化対策のためにMaaSを検討しているのに対し、日本は地方の交通手段を確保するためにMaaSを検討している。首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 観光科学域 教授の清水哲夫氏は、日本の現状について「“若い高齢者”が“年配の高齢者”のモビリティの担い手になっている」と指摘する。そしてそのニーズに対する緊急性は都市部よりも地方の方が高いことから「シェアリング×自動運転」の実現に向けた研究開発を進めるべきであると警鐘を鳴らす。一方で、ビジネス性や市場性を考えると都市部の方が期待できることから、「都市部と地方で必要とされるモビリティやその技術は異なるだろう」と語った。
スマートフォンの登場により移動の在り方が大きく変わったのは周知の事実である。フィナンシャル・タイムズ 自動車産業担当特派員のピーター・キャンベル氏によると「ウーバー(Uber)の英国市場参入により、若者の免許取得率が6%下がった」という。
また、仮に自動車を所有していたとしても、そのライフサイクルの90%は駐車場に止まったままとなっている。この現状を改善すべく、自動車メーカーもライドシェア企業やスタートアップとの提携を進めている。「Shared Ownership」への移行が進む中で、市などもその潮流に乗り始めている。
しかしその現状は国や都市によって異なる。「自動運転によるカーシェアなどのMaaSの実現は、技術と規制の組み合わせが重要な要素になるが、その「規制」が要因となって、いつ実現するかは予測できない」と語るのは、ライドシェアプラットフォームを展開するライドセル(Ridecell) セールス&カスタマーアクセス担当バイスプレジデントのマイケル・コトル氏だ。例えば、ナイジェリアやラゴスのように道路が管理されていないところもあれば、あるいは中国やエストニアのように早くから自動運転向け規制を制定している国もある。このように国や都市によって事情が異なるというのが実情だ。
その中で「最も規制に関する取り組みが進んでいるのはシンガポールだ」とコトル氏は断言する。シンガポールは既に官民連携して複数のプロジェクトを推進している。また街も、地下鉄からラストマイルの自動運転シャトルバスまで、モビリティに適した形で設計されている。規制と技術の両方を持ち合わせた世界で最初の都市といえるそうだ。
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