大阪大学は、がん組織内の酸性環境にがん細胞が自ら最適化する現象「acid addiction」を発見した。がん細胞は、リソソームを利用した仕組みにより、酸性環境下でも細胞内のプロトンを一定レベルに保って増殖できることが分かった。
大阪大学は2020年9月12日、がん組織内の酸性環境にがん細胞が自らを最適化する現象「acid addiction(酸中毒)」を発見し、その適応機構を解明したと発表した。同大学微生物病研究所 教授の三木裕明氏らの研究グループによる成果だ。
研究チームは、悪性ヒトがん細胞で高発現するPRL分子により、細胞の増殖しやすい環境pHが通常の7.4前後からがん組織でみられるpH6.5前後(酸性側)にシフトすることを発見。がん組織内の酸性環境では増殖できるが、通常細胞にとって最適なpH7.4前後ではほとんど増殖できなくなる現象を見出し、これをacid addictionと名付けた。
また、関連遺伝子の網羅的なスクリーニングにより、酸性環境下への適応機構を明らかにした。具体的には、PRLの働きにより、リソソームが細胞辺縁部に移動して細胞膜と融合し、リソソーム内にある高濃度のプロトンを細胞外へと放出する現象「lysosomal exocytosis」が生じる。これによりがん細胞は、酸性環境下でも細胞内のプロトンを一定レベルに保ち、盛んに増殖できる。
従来の研究で、がん組織内の酸性化は明らかにされているが、がん細胞が酸性環境下で増殖し続けられる仕組みは不明だった。今回の研究により、酸性環境への適応機構が明らかになったことで、これをターゲットとした新たながん治療法開発への応用が期待できるとしている。
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