信州大学と東芝は、がん細胞に選択的に遺伝子を伝達する「がん指向性リポソーム」を開発したと発表。東芝が独自に設計した100nmサイズのナノカプセルに、信州大学 教授の中沢洋三氏らが研究を進めるがん抑制遺伝子を内包して、治療対象となるT細胞腫瘍に選択的に同遺伝子を導入することに成功。マウスによる動物実験により効果を確認した。
信州大学と東芝は2020年5月29日、がん細胞に選択的に遺伝子を伝達する「がん指向性リポソーム」を開発したと発表した。東芝が独自に設計した100nmサイズのナノカプセルに、信州大学 医学部小児医学教室 教授の中沢洋三氏らのグループが研究を進めるがん抑制遺伝子を内包して、治療対象となるT細胞腫瘍に選択的に同遺伝子を導入することに成功。マウスによる動物実験により効果を確認した。両者は2019年11月に共同研究の開始を発表しており、今回の発表はその成果となる。今後は、2023年ごろの治験開始に向けて開発を進めて行く方針だ。
がんの新規罹患(りかん)者数と死亡者数は年々増え続けており大きな社会課題となっている。胃がんなどでは早期発見した場合の生存率が向上しているものの、膵臓やたんのう、肺、肝臓、脳のがん、骨髄腫、白血病などは外科手術や薬物治療では治療が難しいという課題がある。
そこで期待されている新たながん治療法が遺伝子治療だ。治療遺伝子をがん細胞の中に運ぶことによって、がん細胞の増殖を抑制したり、がん細胞を強制的に死滅させたりすることができる。実際に、患者自身のT細胞から作り出されるCAR(キメラ抗原受容体)-T細胞を用いた治療法が2019年3月に薬事承認され保険適用になるなど、期待を集めている。
ただし、がんの遺伝子治療において大きな課題の1つになっているのが、治療対象のがん細胞に治療遺伝子を送り届ける運搬プロセスだ。有力候補として研究開発が進んでいるのがウイルスの感染力を利用した運搬プロセスだが、ウイルスの制御や管理、運搬の品質を一定にすることが難しく、ウイルスを使うということ自体の安全性についても課題がある。
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