人工知能を用いて胃がんの化学療法の効果を予測医療技術ニュース

理化学研究所らは、胃がん患者のゲノム変異とRNA発現データから腫瘍内の免疫活動の特徴を解析し、AIを用いてそれぞれの化学療法の効果を予測することに成功した。

» 2025年01月09日 15時00分 公開
[MONOist]

 理化学研究所は2024年12月16日、胃がん患者のゲノム変異とRNA発現データから腫瘍内の免疫活動の特徴を解析し、AI(人工知能)を用いてそれぞれの化学療法の効果を予測することに成功したと発表した。国立国際医療研究センター、国立がん研究センター、近畿大学らとの共同研究による成果だ。

キャプション 免疫ゲノム情報とAIによる胃がん化学療法の効果予測[クリックで拡大] 出所:理化学研究所

 今回、化学療法開始前に採取した進行胃がん組織の全ゲノムシークエンス解析とRNAシークエンス解析を実施し、がん細胞やがん組織の遺伝子変異や遺伝子発現に関する情報と実際の化学療法の効果との関連を調べた。

 その結果、胃がんのドライバー遺伝子変異、薬剤代謝酵素の多型、MSI状態、EBVやピロリ菌感染などは、化学療法の効果と関連が認められなかった。一方、がん細胞のコピー数異常における特定のパターンと化学療法の効果には関連が認められた。

 RNA発現解析からは、492個の遺伝子発現が化学療法の効果と関連していることが明らかとなった。GSEA解析を用いて遺伝子発現の傾向を調べたところ、炎症関連の遺伝子群の活性が化学療法の効果が高い群で上昇していた。

 また、胃がん組織に発現する免疫細胞に着目し、TAN(腫瘍内の好中球)、B細胞、CD8+T細胞、CD4+T細胞がそれぞれ多く発現する4つの群に分類すると、TANが多い群で化学療法の効果が高く、TANの活動が化学療法の効果と機能的に関連していることが示唆された。なお、以前に理化学研究所が報告した食道がんについての同様の研究では、TANの化学療法との相関は逆の結果だった。

キャプション 胃がんの免疫分類[クリックで拡大] 出所:理化学研究所

 次に、ML(機械学習)を活用し化学療法の効果を予測するアルゴリズムを開発した。2種類のデータセットを用いて予測精度を調べたところ、診断法の有用性を示すAUCは0.7〜0.8となり、高い予測精度の再現性を確認した。

 さらにTANのシングル細胞RNAにより、免疫細胞におけるRNA発現データの特徴を調べた。TANを12個の分画に分類でき、そのうちの2つの分画が腫瘍の成長や転移を抑制する抗腫瘍的に働き、3つの分画が腫瘍の成長や転移を促進する親腫瘍的に働いていることが明らかとなった。抗腫瘍的に働いているTANは化学療法の反応性と胃がん患者の予後に関連していた。

キャプション TANのシングル細胞RNA解析[クリックで拡大] 出所:理化学研究所

 今回の研究成果は、事前にがん化学療法の効果を予測するがん精密医療や、新しいがん免疫療法の開発に応用できる可能性がある。

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