慶應義塾大学と自治医科大学は、社会的孤独が動脈硬化を促進させる新たな分子機序を発見した。脳視床下部でオキシトシンが減少し、肝臓における脂質代謝制御機構が破綻することが原因だ。
慶應義塾大学は2024年12月16日、社会的孤独が動脈硬化を促進させる新たな分子機序を発見したと発表した。脳視床下部でオキシトシンが減少し、肝臓における脂質代謝制御機構が破綻することが原因だ。自治医科大学との共同研究による成果だ。
今回の実験は、社会性のあるマウスの中でも特に絆が深いとされている同じ母親から生まれた兄弟マウスを用いた。通常通り1つのケージに4〜5匹飼育する対照群と、孤飼にする孤独群に分けて検討したところ、これまでの通説であった食事摂取量、交感神経系、視床下部/下垂体/副腎皮質系、炎症の活性化と無関係に、社会的孤独ストレスが動脈硬化を促進することを発見した。
また、社会的孤独により、脳視床下部からのオキシトシン分泌が減少し、血中の中性脂肪やVLDL-コレステロール、LDL-コレステロールなどの悪玉コレステロールが上昇することが明らかとなった。さらに詳細な研究から、オキシトシンが肝臓において同時に2つの異なる機序で脂質代謝を制御していることを世界で初めて明らかにした。
1つ目は、コレステロールを胆汁酸に変換する酵素CYP7A1を増加する作用だ。肝臓から血液中に分泌される前にコレステロールを胆汁酸に変換して腸に排せつすることで、悪玉コレステロールを減少させる。2つ目は、LPL(リポタンパクリパーゼ)活性を制御するANGPTL4/8の生成を調整する作用だ。血中で中性脂肪や悪玉コレステロールを分解する機能を持つLPL活性を改善することで、中性脂肪や悪玉コレステロールの分解を制御する。
さらに、オキシトシンの経口投与により社会的孤独ストレスによる中性脂肪や悪玉コレステロールの上昇と動脈硬化が抑制されることを確認している。
近年、ヒトを対象とした臨床研究により、社会的孤独が動脈硬化性疾患である心筋梗塞の発生率や総死亡率を上昇させることが明らかになりつつある。今回の研究成果から、オキシトシンが社会的孤独による動脈硬化進展に対する新たな治療標的分子として期待される。
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