CAD系で位相最適化にいち早く取り組んでいたのがアルテアエンジニアリングの「solidThinking」で、2009年から提供する「Morphogenesis」という技術だ。ただし、solidThinkingは工業デザイン向けの「NURBSモデラー」であり、かつポリゴンの扱いに強く、メカ設計者のメインツールであるソリッド系CADとは生い立ちが異なっている。
2016〜2017年の間で、オートデスク「Inventor」、シーメンスPLMソフトウェア「Solid Edge」、ダッソー・システムズ・ソリッドワークス「SOLIDWORKS」とミッドレンジクラスのソリッドCADに位相最適化機能が相次いで組み込まれるという流れが起こった。
従来の位相最適化は、基になる3D形状から肉をそぎ落としていくアプローチだった。オートデスクとソリッドワークスが新機能として発表したのは、それだけではない。ユーザーが決めた条件と設計空間の範囲で、コンピュータが一から自発的かつ複数の形状を生成する機能である。2018年以降も引き続き、各社のCADで類似の機能が出てくる、あるいは既存機能の強化の発表の可能性がある。
CAEもポリゴンデータが処理されるシステムであり、位相最適化との連携も行われてきた。フロントローディングやコンカレントエンジニアリング、設計者CAEという考え方自体は目新しいものではなく、もやは使い古された言葉ともいえる。しかしながら、これまでは関連ツール導入や運用にあたる課題も非常に多く、思うように進んでこなかった現場が多かった。
これまで述べたCADの進化と併せ、CAEベンダーにおける買収技術の統合が整うとともに、GPUやネットワーク技術が急速に進化するなど周辺技術が満を持して熟してきた。これらにより、さまざまな分野の設計開発において、設計者が開発のなるべく初期の段階から位相最適化や線形解析などにある程度取り組んで問題を洗い出してから、絞り込まれた機能や候補について解析専任者が詳しく解析していくという役割分担がより浸透していくと考えられる。
この一連の動きで、位相最適化の役割は、これまでの「部品の軽量化」に加えて、メカ設計者の「設計支援」「創造支援」といった性質も強まっていくと考えられる。また2018年以降、3D CADユーザーは、上司・先輩からたたきこまれてきた常識の一部を壊すことを考えないといけないかもしれない。
3Dプリンタは、先のブームの中でエントリー機が値を大きく落としただけではなく、ハイエンド機については製品製造装置としての技術がさらに高度化してきた。ハイエンド機であれば、従来の試作の範囲にとどまらず、小ロット製品生産に耐え得る性能になってきた。懸念されていた生産力の問題もセルシステムで解消しようという動きも見られる。かつては石こう造形の1択であったフルカラー機のバリエーションも増え、2018年以降も少しずつ増えていくだろう。最終製品における活用事例は実際まだ少数ではあるが、今後は確実に増加すると考えられる。
過去は、製造条件による制約に基づいて無駄のない形状を設計することこそが最適であって、それが工業製品のたたずまいとしての美しさであるとも評価された。複雑な形状も敬遠されがちだった。しかし今後は、それにとらわれる必然性がなくなってしまう。また過去には、意匠部門と設計部門との間で、「こんな感じのカーブでないと美しくない!」と訴えれば、「一体、どこに作れる工場があるか!」と反論してと、ケンケンゴウゴウ言い合ったものだったが、もしかして今後は、ツールの壁が少しずつ取り払われることが手伝って、そんな機会も少しずつ減っていくのかもしれない。
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