九州大学は、従来のセンサーと比べ、長期間に渡って安定的に動作する分子センサー(化学物質を検出するセンサー)を開発した。今後、ビッグデータ収集で性能を発揮できれば、病気の予防や早期発見、環境負荷物質の測定や抑制などにも応用できる。
九州大学は2017年11月9日、従来のセンサーと比べ、はるかに長期間にわたって安定的に化学物質を検出する分子センサーを開発したと発表した。同大学先導物質化学研究所 教授の柳田剛氏らの研究グループによるもので、成果は同月8日、米化学会誌「ACS Sensors」オンライン速報版に掲載された。
従来の分子センサーは、動作による性能の劣化で、長期的に安定して動作させるのが難しいという課題があった。
同研究グループは、酸化物の分子センサー材料として一般的に用いられている酸化スズ(SnO2)のナノワイヤ(ナノメートルスケールのワイヤ構造)を用いた分子センサーを作製。ナノワイヤの電気信号を取り出す部分の材料(コンタクト層)に、これまでのチタンなどの金属ではなく、ナノワイヤと同じ材料を用いた。実験では、コンタクト層にチタンを用いたものと、アンチモン(Sb)を添加した酸化スズ(ATO:Antimony-doped Tin Oxide)を用いたものを用意した。
2つのセンサーを動作条件である200℃で大気中に保持したところ、チタンを用いたセンサーは数時間で性能が著しく劣化した。一方、ATOを用いたセンサーは、最低でも2000時間は性能が劣化しなかった。環境負荷物質である二酸化窒素(NO2)の検出性能でも、ATO使用のセンサーが優位であることが実証された。ATOは高温下でも大気中の酸素や水分と反応することがないため、長期間、安定して動作できる。
ATOを用いたセンサーは、下地となる基板の種類を選ばないことから、同センサー素子をフレキシブル基板であるPEN(ポリエチレンテレフタレート)基板上に作製した。その結果、ここでも優位性が示された。これにより、フレキシブルエレクトロニクス(自由に曲げることのできる材料を用いた電子機器や集積回路)を基盤とするウェアラブルセンサー技術にも適用可能なことが確認できた。
同技術によって人の呼気や大気中に含まれる化学物質をスマートフォンなどでモニタリングできれば、そのビッグデータを活用し、病気の予防や早期発見といった健康管理、環境負荷物質の測定・抑制などへの応用が期待できる。
今後は、この成果を他の酸化物材料へ拡張し、より長期の動作を可能にするなど、各種分子センサーがビッグデータ収集で十分性能を発揮できるよう、課題解決に取り組んでいく。
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