パナソニックと京都大学が、両者が共同開発しているミリ波レーダーを用いた非接触の生体情報センシング技術について説明。心拍だけでなく心拍間隔も計測できる高い精度と、測定対象が1人だけでなく複数人数の同時計測が可能な点が特徴。将来的には、センサーモジュールを10cm角まで小型化することも視野に入れている。
パナソニックと京都大学は2016年1月28日、東京都内で会見を開き、両者が共同開発しているミリ波レーダーを用いた非接触の生体情報センシング技術について説明した。開発中のミリ波レーダーとアルゴリズムは、心拍だけでなく心拍間隔も計測できる高い精度と、測定対象が1人だけでなく複数人数の同時計測が可能な点が特徴。両者の共同研究の期間は2013〜2022年度の10年間となっているが、できる限り早期の実用化を目指す方針だ。
生体情報センシングは、人の体調の変化を検知でき、健康維持や病気の早期発見などに役立つといわれている。ただし、生体情報センシングを実現するための手段には、依然として多くの課題がある。ウェアラブル端末のような接触型センサーは、接触によるストレス、装着の煩わしさ/拘束感、充電などのメンテナンスの面倒さがある。京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻 教授の佐藤亨氏は「ウェアラブルといえども、自宅でも着けていたいと考える人はあまりいないのが実情だろう」と語る。
一方、非接触型センサーも、測定精度が不足していたり、外乱の影響/干渉に弱かったりという課題がある。
パナソニックと京都大学は、これら生体情報センシングの課題を解決すべく「心電計相当の精度で、心拍間隔時間をストレスフリーにカジュアルセンシング」という目標で、2013年度から研究開発を始めた。センサーについては、パナソニックが、高感度で複数人計測も可能なスペクトラム拡散ミリ波レーダー技術を、センサーの情報から心拍間隔などの生体情報を抽出する、特徴点をベースにした新しい心拍推定技術は京都大学の佐藤氏の研究グループが提供している。
今回の会見では、両者の提供技術と現時点での成果の説明、実際に非接触で心拍間隔を計測するデモンストレーションなどが行われた。
実は、同様の非接触の生体情報センシング技術としては、マイクロ波に当たる24GHz帯のレーダーを用いた呼吸数や心拍をモニタリングする技術が知られている。シャープや光波、新日本無線などが、就寝時や運転中の異変を検知する見守りシステムとして提案中だ。
パナソニックと京都大学の技術は、これらの24GHz帯マイクロ波レーダーと比べて、周波数帯と帯域幅が異なる。今回の研究成果では、60GHz帯のミリ波レーダーを用いている。帯域幅は、24GHz帯マイクロ波レーダーの数十MHzに対して500MHzと広く、いわゆるUWB(超広帯域)となっている。
パナソニックのスペクトラム拡散ミリ波レーダー技術は、UWBによる高感度化に加え、符号変調による他システムとの干渉対策や、1個のレーダーによる複数人数の同時計測などが特徴になっている。これによって、呼吸や心拍にひも付く人体の体表面の変位を検知できる。例えば、呼吸による体表面の変位は1〜50mm、心拍は0.1〜0.5mmになる。
心拍のようなわずかな体表面の変位を計測できる精度はあるものの、ミリ波レーダーで得た情報から呼吸や心拍、そして心拍間隔などを抽出するのは容易ではない。なぜなら、ミリ波レーダーで得た情報には、身体の動き、呼吸による体動、そして心拍などが全て含まれているからだ。24GHz帯マイクロ波レーダーを用いる生体情報センシングでも、外乱となる身体の動きが少ない就寝時の利用が想定されている。
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