デジタルヘルスを駆使して高齢者介護改革を目指すオーストラリア海外医療技術トレンド(121)(1/4 ページ)

本連載第31回で、オーストラリア政府の「2018〜2022年オーストラリア国家デジタルヘルス戦略」を取り上げたが、同国のデジタル技術は医療から介護分野へと拡大している。

» 2025年07月11日 06時00分 公開
[笹原英司MONOist]

 本連載第31回で、オーストラリア政府の「2018〜2022年オーストラリア国家デジタルヘルス戦略」(関連情報、PDF)を取り上げたが、同国のデジタル技術は医療から介護分野へと拡大している。

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オーストラリアのデジタルヘルス戦略はインクルージョンや持続可能性を重視

 2024年2月22日、オーストラリア連邦政府のデジタルヘルス庁は、2018〜2022年戦略の後継版となる「2023〜2028年オーストラリア国家デジタルヘルス戦略」(関連情報)を発表している。

 図1は、2023〜2028年デジタルヘルス戦略の全体像を示したものである。

図1 図1 2023〜2028年オーストラリア国家デジタルヘルス戦略の全体像[クリックで拡大] 出所:The Australian Digital Health Agency「Australia's National Digital Health Strategy 2023-2028」(2024年2月22日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 2018〜2022年デジタルヘルス戦略では「患者と供給者の双方にとって革新的で使いやすいツールを広範囲に提供する、シームレスで安全でセキュアなデジタルヘルスサービスと技術によって実現できる、全オーストラリア国民のよりよい健康」をビジョンに設定していたが、2023〜2028年デジタルヘルス戦略では、「つながりのあるデジタル化された保健医療システムを通じて、全てのオーストラリア国民にとってインクルーシブで持続可能な、より健康な未来を実現する」をビジョンに設定している。北欧諸国のデジタルヘルス戦略と同様に、オーストラリアでも、「インクルーシブ(Inclusive)」や「持続可能(Sustainable)」といったキーワードが追加された。

 そして、新たなデジタルヘルス戦略は、図1に示されている4つの変革を可能にする要因に渡り、一貫した継続的な国家的取り組みを通じて達成を目指すとともに、オーストラリアの保健医療システムのために特定された4つの主要なアウトカムの実現を支援するとしている。

 また、保健医療エコシステムにおけるパートナーとコラボレーターの1つに「産業とテクノロジーベンダー」が位置付けられた。具体的には、臨床情報システム開発者、ソフトウェア開発者、アントレプレナー、セキュアメッセージングプロバイダー、標準化団体、医療情報学コミュニティー、治療用品産業などが含まれる。

ロードマップの実現に向けて期待されるデジタルヘルスイノベーション

 2023〜2028年デジタルヘルス戦略は、以下のような構成になっている。

  • 担当大臣による序文
  • エグゼクティブサマリー
    • 医療を変革する機会
  1. イントロダクション
    • なぜデジタルヘルスが重要なのか?
    • われわれのデジタルヘルスジャーニーにおける次のステップ
    • 戦略遂行ロードマップ
    • デジタルヘルスの成長
    • デジタルヘルスの利点が持続可能なヘルスケアをどのように支援するか
    • テクノロジーの利点、リスク、臨床上の安全性
  2. 全てのオーストラリア国民にとってより健康な未来
    • 変化を可能にする要因:変化を可能にする要因:デジタルヘルス導入、利用、イノベーションを育む政策・規制の枠組み
    • 変化を可能にする要因:安全で目的に合致し、接続されたデジタルソリューション
    • 変化を可能にする要因:デジタルに対応し、デジタルを活用できる医療・ウェルビーイング従事者
    • 変化を可能にする要因:十分な情報と自信を持ち、高いデジタルヘルスリテラシーを備えた消費者と介護者
    • 成果1:デジタルに対応可能な
    • 成果2:人間中心
    • 成果3:インクルーシブ
    • 成果4:データ駆動型
  3. 共に前進する
    • 今こそデジタルヘルスをオーストラリアのヘルスケアシステムに組み込む時である
  4. 参考文献
    • 関連文書リスト
    • 脚注

 2018〜2022年戦略と同様に、2023〜2028年デジタルヘルス戦略でも、デリバリーロードマップ(関連情報、PDF)が策定された。表1は、戦略で特定された4つの主要なアウトカムの実現のために、デリバリーロードマップで優先すべき領域を整理したものである。

表1 表1 2023〜2028年版オーストラリア国家デジタルヘルス戦略デリバリーロードマップの優先領域[クリックで拡大] 出所:The Australian Digital Health Agency「Australia's National Digital Health Strategy 2023-2028 Delivery Roadmap」(2024年2月22日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 2018〜2022年版ロードマップと比較して表1におけるロードマップの優先領域を見ると、デジタルヘルス技術およびそこから生成されるデータをベースとするテーマが増えていることが分かる。

 加えて新たなロードマップでは、表1中の5つのパートナー/コラボレーターに加え、医療以外のケアやウェルビーイングサービスを提供するケア提供者について言及している点が特徴的だ。具体的には、高齢者介護提供者、高齢者入居施設、障害者サービス、退役軍人サービス、ソーシャルサービスなどを挙げている。

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