EVやPHEVの販売台数は、中国が圧倒的に存在感を示している。2016年は50万台を超える新エネ車を販売し、2017年は80万台前後に拡大すると予想される。またガソリン車も含めた車両の販売台数は2017年も4〜5%増を維持しており、2016年の2803万台に対し2017年は3000万台近くになると思われる。
こうなると、新エネ車を効率よく大量生産するため、既存のメーカーの連合による1000万台規模の自動車メーカーの誕生も想定されるのではないだろうか。報道では、第一汽車と東風汽車、長安汽車の董事長クラスが入れ替わっており、“中国1000万台クラブ”に向けた下準備が整いつつあるようである。
これで思い出されるのが、鉄道車両メーカーの統合である。国営企業の中国南車と中国北車はそれぞれ個別に営業活動を行ってきたが、国際競争力をつけるため2014年末に両社が合併し、世界最大の鉄道車両メーカー「中国中車」が設立された。これと同じことが自動車メーカーにおいても近い将来生じることが予想される。
そうなれば“中国1000万台クラブ”の怖さは、国際競争力をつけ、国内のみならずアジアやASEAN地域を中心に新エネ車を拡販することである。中国経済圏が強いアジアやASEAN地域で、中華資本による充電インフラ建設と相まってシェアを拡大し、日系自動車メーカーの立場を脅かすおそれがある。
各国によるガソリン車やディーゼル車廃止の動き、さらに大手自動車メーカーによるEV大転換、そしてこれまでにない勢力の台頭など、日系自動車メーカーを取り巻く環境は厳しさを増している。「まだすぐには来ない」という楽観した声も聞くが、そうしているうちに、包囲網はあっという間に狭められていくのではないだろうか。
ではどうするか。やや出遅れ気味の状況で多様なEVやPHEVを開発することは、経営資源がいくらあっても足りない。海外企業が多くの専門会社を活用しながら開発しているのであれば、日系自動車メーカーも自前主義とは決別し、車種によって開発委託を行いながら同時並行的に進めることも一案である。
乱世での対処として、宅配便を参考にしたい。数百社が乱立する宅配業界で生き残ることができたヤマト運輸 創業者の小野昌男氏は、著書「経営学」の中で成功の鍵は「荷物の密度」であったと述べている。つまり、集配する地域から上がってくる荷物の個数を増やし、地域単位の荷物の密度を上げることに専念したとのこと。
参考にするとすれば、EVやPHEVにおいても、いろいろな地域にバラバラに販売網を作るのではなく、市場や地域を限定してそこにふさわしいEVもしくはPHEVを開発、集中投入して市場の橋頭堡(ほ)を確保していく……そんな手法も有効ではなかろうか。
また、言うまでもなく、クルマを作って売るというビジネスモデルから、クルマというハードウェアを活用し、サービスで収益を上げるモデルの構築も必要だろう。
冒頭に「とり得る3つの方針の中から4番目を選んでくる」と述べたように、思わぬ手を打たれ、全く違うところから伏兵が現れうる今こそ、柔軟な発想が必要な時代になってきている。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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