日本の自動車産業は現在、深刻な閉塞感に直面しているのではないだろうか。最大の課題はEVシフトで遅れていることだが、他にもさまざまな懸案がある。今後どのようなことを考えていくべきかについて筆者の考えを述べてみたい。
日本の自動車産業は現在、深刻な閉塞感に直面しているのではないだろうか。八方塞がりの状態ともいえる。最大の課題は、ICE(内燃機関車)からBEV(バッテリー電気自動車)などへ移行するEVシフトが遅れていることにある。この遅れを取り戻そうとした大手自動車メーカーの経営統合も破談に終わり、海外勢に立ち遅れていた日本の自動車産業は挽回が難しいと思われてきた。では、今後どのようなことを考えていくべきなのであろうか。筆者の考えを述べてみたい。
世界的に自動車産業は100年に一度の変革期と言われるが、特に日本の自動車産業は多くの面で劣勢が目立ってきた。その内容について7つにまとめてみた。なお、第2次トランプ政権による関税強化の影響については、世界的な懸念であるため除外した。
EVシフトに伴い、海外自動車メーカーは数多くの新基幹技術と呼ばれるものを搭載してきた。例えば、OTA(Over the Air)、e-Axle、ギガキャスト、バッテリーの冷暖房を含む新サーマルマネジメントなどであろう。日系自動車メーカーでも一部を導入しようとしているが、追いついているとは言い難い。中国勢、米国勢は既に第2世代に入っており、その差が拡大している。
BYDは、2024年2月から投入した低価格戦略で成功を収めた。例えば、「PHEV:秦 PLUS DM-i栄耀エディション」は7万9800元(約165万円)から、「BEV:秦 PLUS EV」は10万9800元(約230万円)からである。カムリ、アコードクラスの車両であるにもかかわらず、軽自動車価格で販売している。この低価格戦略の影響により、他社のBEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)も値下げを実施し、それに伴ってICEやHEV(ハイブリッド車)を扱う日系合弁ブランドも販売激減となった。対抗するためには、BEVやPHEVに対してドラスチックな価格低下戦略が必要となる。
自動車の機能においてソフトウェアがより重要な役割を果たすSDV(ソフトウェアディファインドビークル)が今後支配的になるといわれている。AI(人工知能)技術の飛躍的進化により、自動運転の方式として「E2E(End to End)」と呼ばれる新技術が誕生してきた。これに対して、テスラのみならず小鵬汽車(シャオペン)などの中国新興自動車メーカーもE2Eを標準搭載すると表明している。E2Eは、カメラ、ミリ波レーダーなどのセンサーから得た情報を生成AIで処理し、ステアリング、アクセル、ブレーキなどの出力を制御するものである。さらに、中国発の生成AI企業であるDeepSeekは、公開後、多くの自動車メーカーが搭載を公表した。日本勢はこの動きについていけてない。
BYDは2024年5月末に第5世代のDMテクノロジーを発表した(図1)。この技術の特徴は、世界最高水準のエンジン熱効率46.06%、低燃費2.9L/100km、航続距離2,100km以上という性能にある。特に、エンジン熱効率46%を達成したことは、中国におけるエンジン技術が世界トップレベルに到達していることを示した。BYDに続き、Geelyや上海汽車もエンジン熱効率45%を超える技術を発表している。これまで勝っていると思っていたエンジン熱効率で追いつかれたことは、日系自動車メーカーにとって衝撃であり、今後開発競争が激化する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.