多くの環境規制が一つの目標に設定している2035年まで、あと10年に迫ってきた。日々の報道では、EVシフトに関してネガティブとポジティブが錯綜し、何がどうなっているのか分かりにくいという声も多い。では、自動車産業に携わる方は、EVシフトに対して、いま何を考え、どのように備えておくべきであろうか。
多くの環境規制は2035年を一つの目標に設定している。まだ時間があると思っていたが、2024年も年末を迎える中でふと気が付くと、その2035年まであと10年に迫っていることが強く意識されてきた。日々のニュースでは、BEV(バッテリー電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)などへ移行する「EVシフト」に関してネガティブとポジティブが錯綜し、何がどうなっているのか分かりにくいという声も多い。では、EVシフトに向けて果たしてまだ時間はあるのであろうか。自動車産業に携わる方はEVシフトに対して、いま何を考えておくべきであろうか。筆者の考えを述べてみたい。
まずは、この原稿を書いている中で、米国次期大統領に選出が決まったドナルド・トランプ氏のEVシフトに関わる影響について書いておきたい。これまでの発言や、テスラのイーロン・マスク氏が強力に支援していることから、今後、米国のEVシフトに関しては、次のことが掛け算としてキーとなるのではないだろうか。
「米国内の雇用を増やす」×「BEVのみへの投資拡大」
トランプ氏は、選挙期間中も「私はBEVに賛成だ」と従来の発言を翻し、BEVを支持する姿勢に転じている。ということは、バイデン政権の「米国インフレ抑制法(IRA法)」をいったん廃止してから、同法がこれまで北米という枠内であったものを米国内に限定して内容を見直し、かつBEVのみに限って投資拡大への支援を行うのではないだろうか。そのため、中国自動車メーカーの米国生産を認める可能性もある。また、FCEV(燃料電池車)やPHEVは支援対象外になるだろう。
なお、留意すべきは、トランプ氏の大統領任期は2025年1月〜2029年1月までの4年間であり、2035年を目標とするさまざまな環境規制への対応を制限するよりも、逆にアクセルを踏むのではないだろうか。
それでは、冒頭で挙げたEVシフトに対する筆者の考えの話に戻そう。2024年に入って、EVシフトに関してネガティブな情報が多くなってきた。代表的なものでは、欧州でのVW(Volkswagen)工場閉鎖の話題、米国ではGM(General Motors)やフォード(Ford Motor)によるピックアップトラックEVの投入見直し、トヨタ自動車による2026年BEV生産台数目標の150万台から100万台への見直しなどであろう。
一方では、ポジティブな情報も時々ではあるが報じられている。例えば、2024年1〜9月において、中国におけるBEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)などから成るNEV(新エネルギー車)の新車販売台数が739万台、対前年同期比で36%増となった。米国では、117万台で同8%増である。テスラ(Tesla)減速の報道がある中、意外にもGMの「シボレー ブレイザーEV」やフォードの「Fシリーズ」など米国系メーカーが伸びているようだ。欧州では213万台、同3%減となっている。海外では、日本で報道されるほどEVシフトは減速しておらず、最大手の中国を筆頭にそれなりに健闘しているように見受ける。
このような状況下で2024年10月16日、IEA(国際エネルギー機関)は「World Energy Outlook 2024」を発表した。その中でBEV+PHEVの新車販売台数は、2024年で1700万台に達するとしている。これは、2024年4月23日に公表した「IEA Global EV Outlook 2024」の予測と同じである。
さらに、今回の発表内容で特筆すべき事項として、約30カ国がゼロエミッション車の目標や内燃機関車を段階的に廃止するスケジュールを設定していることから、2035年にはBEV+PHEVの新車販売比率が55%に達すると予測していることを挙げておきたい。これは、数多くあるシナリオの中でSTEPS(既定政策シナリオ)であり、かつグローバルな予測であることから注目に値する。
地域別の予測は公表されていないが、中国、欧州などはこれよりかなり高めの数値となるであろう。IEAの調査に対しては、緻密に市場データを集めて検討し、慎重な予測をすることが多い印象だが、今回あえてこの予測を発表したことに驚かされる。2035年まであと10年余りしかなく、IEAの予測を過小評価することは将来動向を見誤る可能性があるのではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.