さて、前述の通り、多くの環境規制は2035年を一つの目標年としている。代表例では、CARB(米国カリフォルニア州大気資源局)が定めるZEV(ゼロエミッション車)規制「Advanced Clean Cars II」である。これは同州で販売する乗用車およびライトトラックに対して、ZEV対象車を2026年の35%から2035年には100%まで販売を義務付ける法案である。なお、ZEV対象車とは、BEV、PHEVおよびFCEVである。
なお、トランプ政権になったとしても、過去にCARBが定めるZEV規制を廃止しようと試みたが州法であることから断念した経緯がある。今回は、前述の通りBEVへの投資支援という観点から、当該法案に対しては賛成の立場に変わるように思われる。
欧州では、2035年に内燃機関車の新車販売を禁止する「Fit for 55 Package」の包括案がある。2023年2月、EU(欧州連合)加盟国は、2035年に内燃機関搭載車の新車販売を禁止する法案に最終合意した。ただし、ドイツが2035年以降もe-Fuelで走行する新車販売の継続を求めたことから、2024年秋までに制度設計を固めるようだ。現在、欧州自動車メーカーを中心に、当該法案を見直す要望が出ているが、逆に地域の配送企業からは法案を厳守すべきとの声も出ている。筆者は現状維持になるのではないかと推測している。
このように、2035年が一つの目標年とされているわけだが、筆者の自動車メーカーでの経験から言えば、2035年より以前に内燃機関車の商品企画が成り立たなくなるのではないかと推察する。というのは、例えば2032年の販売開始を考えると、これまで販売できていた市場でも、将来の販売禁止を考慮し、ユーザーならびに販売店とも購入を手控えるからである。では、その影響をあまり受けないのはいつかと考えると、自動車でいう一世代前、つまり7〜8年前であろう。ここで仮に7年前と仮定すると2028年となる。
また、EVシフトへの新規事業支援の経験から言えることは、アイデア抽出や基礎研究から開発/量産に至るまで4年前後を要することが多い。仮にこの期間を4年とすると、EVシフトに対する新規事業への限界着手時期は2024年となる。
このようにバックキャスティングで考えると、現在は既に2024年の後半を過ぎて年末に差し掛かっており、新規事業開発の着手時期は過ぎていると言っても過言ではない。卑近な例でいえば「最後の船が出るぞ!」というタイミングであろうか。そのため、もし日本の自動車部品メーカーで、EVシフトをまだ先のことと考えているところがあれば、かなり危険な状態と言えるだろう。もちろん、これ以降もEVシフトの新規事業開発ができないことはないが、ブルーオーシャンからレッドオーシャンに移行し、資本力のある大企業だけが参入できる領域となるであろう。
なぜそのような話をするのかと言うと、2023年に複数の欧米の大手自動車部品メーカーにヒアリングを行う機会があったからだ。驚くべきことに、そのほとんどが少なくとも3〜4年前、つまり2020年頃からメインの業務を内燃機関部品からEVシフトに業態転換していた。これまで内燃機関専業の部品メーカーであった企業でも、M&AでEVシフトに関連する部品メーカーを買収したり、既に自社開発に着手したりするなど、品揃えを充実させていた。メディアによる「EVシフトはまだ来ない」という情報に惑わされず、自らいつまでに、どう動くのか問うことが大切となる。
では、EVシフトに対していま何を考え、どう行動すべきなのであろうか。筆者は次の3つを提案したい。
日系自動車メーカーは、ICE(内燃機関車)、HEV(ハイブリッド車)、PHEV、BEV、FCEVなどを複数もしくは全て品揃えをし、開発/販売していることが多い。直近でも、日産自動車はPHEVを自社開発し、ホンダは三菱自動車からのOEM供給を検討するとのニュースが流れている。
しかし、今後も同様な開発姿勢を続けていくのであろうか。全てを同時開発できるメーカーはよいが、世界中で環境規制が今後も厳しくなることを考えると、成長著しいBEVとPHEVに軸足を置くことが望ましいのではないだろうか。社内では過去からのしがらみもあると思うが、それを清算してBEVとPHEVに開発を集中することで、生き残りの可能性が見えてくるように思える。これは自動車部品メーカーにとっても同様であろう。
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