欧州委員会は本当にエンジン車禁止を撤回したのか、自動車規制緩和案を読み解く和田憲一郎の電動化新時代!(61)(1/3 ページ)

欧州委員会が2025年12月16日に発表した自動車分野における規制緩和案に対して、「エンジン車禁止の撤回」という言葉で語る報道も多くみられる。そこで、欧州委員会の公表内容を整理するとともに、今後の動向について筆者の考えを述べてみたい。

» 2026年01月26日 06時00分 公開

 欧州委員会は2025年12月16日、自動車分野における規制緩和案を公表した。これは、欧州理事会が2023年3月に「2035年以降の内燃機関搭載新車の販売禁止」を決定したことに対し、ドイツをはじめとする複数の加盟国から、市場動向や雇用動向など実情を考慮すべきとの要望に応える回答であった。今回の公表については、一部報道において「エンジン車禁止の撤回」といった言葉が見られるものの、内容を正確に反映しているとは言い難い。そこでいま一度、欧州委員会の公表内容を整理するとともに、今後の動向について筆者の考えを述べてみたい。

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欧州委員会による自動車規制緩和の骨子

 EU(欧州連合)の立法機関である欧州委員会(図1)は2025年12月16日、「クリーンモビリティへの移行に向けた自動車業界の取り組みを支援する自動車パッケージ案」を公表した※)

※)欧州委員会2025年12月16日付ニュースリリース「Commission takes action for clean and competitive automotive sector」を参照

図1 図1 欧州委員会オフィスビル 出所:欧州委員会

 本パッケージ案は単一の法案ではなく、複数の法案によって構成されている。サマリーをまとめた巻頭言には、「このパッケージは、2050年までの気候中立および戦略的自立性を確保しつつ、メーカーに一層の柔軟性を提供するための、野心的かつ実践的な政策枠組みを提示するものである」と述べている。

 このように、本パッケージ案は「エンジン車禁止の撤回」といった単純化された報道とは異なり、2023年3月に確定した法案に対し、産業界からの要請を踏まえて政策枠組みを再調整したとの位置付けである。

規制緩和案の骨子

  • 乗用車およびバンのCO2排出削減目標については、2021年比で100%削減としていた2035年目標を90%削減に引き下げる規制緩和案を公表した。これにより、2035年に内燃機関車の新車販売を原則禁止する方針を撤回した
  • 残りの10%に当たるCO2排出量については、EU地域産の低炭素鋼またはe-Fuel/バイオ燃料の使用により補填(ほてん)することが盛り込まれた
  • 自動車メーカーは、上記のCO2排出量90%削減およびEU地域産の低炭素鋼の使用、またはe-Fuel/バイオ燃料によって補填(ほてん)することができる場合、2035年以降もBEV(バッテリー電気自動車)、FCEV(燃料電池車)に加えて、PHEV(プラグインハイブリッド車)、EREV(レンジエクステンダー車)、マイルドHEV(ハイブリッド車)、内燃機関車も引き続き販売可能とした
  • 「小型手頃な価格の自動車(Small Affordable Cars)」イニシアチブとして、全長4.2m以下のBEVを対象とする新たな車両カテゴリーを導入する
  • EU域内で製造される上記の小型BEVは「スーパークレジット」の恩恵を受けることができる
  • 社用車に関しては、ゼロエミッション車および低エミッション車の導入を支援するため、国別レベルで義務的な目標を設定する
  • 15億ユーロの無利子融資など、欧州独自のバッテリー産業の振興戦略を実施する

規制緩和案に対する私見

 今回提示された規制緩和案では、乗用車およびバンのCO2排出削減目標について、2035年に2021年比で100%削減としていた当初目標に対して、90%削減に引き下げている。しかし、残りの10%についてはEU地域産の低炭素鋼の使用や、e-Fuel/バイオ燃料の活用を義務付けるなど、緩和と称しつつも依然として厳格な要件が課されている。

 自動車メーカーは、上記条件を満たした上で、BEV、FCEV以外に、PHEV、EREV、マイルドHEV、さらには内燃機関車の販売を継続することは形式上可能である。

 とはいえ、2021年比でCO2排出量90%削減という目標は極めて厳しい。その上、残りの10%の排出量に対しても、低炭素鋼や合成燃料などの使用義務が課されるため製造コストの上昇は避けられず、結果として販売価格は高くなり、販売台数も限定的となることが予想される。つまり、自動車業界への柔軟性を考慮したとはいえ、「高い条件を満たした場合に限り、極めて少量の販売を認める」という性格が強く、厳しい目標を達成できた場合の“ご褒美”程度の意味合いでしかないのではないだろうか。

 なお、欧州委員会は立法機関であり、強力な権限を有するものの、最終的な決定には加盟国、欧州議会、そして欧州理事会の承認が必要となる。

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