欧州委員会が2025年12月16日に発表した自動車分野における規制緩和案に対して、「エンジン車禁止の撤回」という言葉で語る報道も多くみられる。そこで、欧州委員会の公表内容を整理するとともに、今後の動向について筆者の考えを述べてみたい。
欧州委員会は2025年12月16日、自動車分野における規制緩和案を公表した。これは、欧州理事会が2023年3月に「2035年以降の内燃機関搭載新車の販売禁止」を決定したことに対し、ドイツをはじめとする複数の加盟国から、市場動向や雇用動向など実情を考慮すべきとの要望に応える回答であった。今回の公表については、一部報道において「エンジン車禁止の撤回」といった言葉が見られるものの、内容を正確に反映しているとは言い難い。そこでいま一度、欧州委員会の公表内容を整理するとともに、今後の動向について筆者の考えを述べてみたい。
EU(欧州連合)の立法機関である欧州委員会(図1)は2025年12月16日、「クリーンモビリティへの移行に向けた自動車業界の取り組みを支援する自動車パッケージ案」を公表した※)。
※)欧州委員会2025年12月16日付ニュースリリース「Commission takes action for clean and competitive automotive sector」を参照
本パッケージ案は単一の法案ではなく、複数の法案によって構成されている。サマリーをまとめた巻頭言には、「このパッケージは、2050年までの気候中立および戦略的自立性を確保しつつ、メーカーに一層の柔軟性を提供するための、野心的かつ実践的な政策枠組みを提示するものである」と述べている。
このように、本パッケージ案は「エンジン車禁止の撤回」といった単純化された報道とは異なり、2023年3月に確定した法案に対し、産業界からの要請を踏まえて政策枠組みを再調整したとの位置付けである。
今回提示された規制緩和案では、乗用車およびバンのCO2排出削減目標について、2035年に2021年比で100%削減としていた当初目標に対して、90%削減に引き下げている。しかし、残りの10%についてはEU地域産の低炭素鋼の使用や、e-Fuel/バイオ燃料の活用を義務付けるなど、緩和と称しつつも依然として厳格な要件が課されている。
自動車メーカーは、上記条件を満たした上で、BEV、FCEV以外に、PHEV、EREV、マイルドHEV、さらには内燃機関車の販売を継続することは形式上可能である。
とはいえ、2021年比でCO2排出量90%削減という目標は極めて厳しい。その上、残りの10%の排出量に対しても、低炭素鋼や合成燃料などの使用義務が課されるため製造コストの上昇は避けられず、結果として販売価格は高くなり、販売台数も限定的となることが予想される。つまり、自動車業界への柔軟性を考慮したとはいえ、「高い条件を満たした場合に限り、極めて少量の販売を認める」という性格が強く、厳しい目標を達成できた場合の“ご褒美”程度の意味合いでしかないのではないだろうか。
なお、欧州委員会は立法機関であり、強力な権限を有するものの、最終的な決定には加盟国、欧州議会、そして欧州理事会の承認が必要となる。
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