欧州委員会は本当にエンジン車禁止を撤回したのか、自動車規制緩和案を読み解く和田憲一郎の電動化新時代!(61)(2/3 ページ)

» 2026年01月26日 06時00分 公開

これまでの背景および経緯

 振り返れば、「2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案」は、2021年7月14日に欧州委員会から提案されたパッケージ法案である「Fit for 55」の一部である。

 当該法案は、2030年の温室効果ガス削減目標を、1990年比で少なくとも55%削減を達成するために、数多くの法案を包含する政策パッケージであった。その中で、驚きをもって報じられたのが「乗用車および小型商用車のCO2排出標準に関する規則の改正」法案である。この法案では、重要事項として、2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案が盛り込まれた。

 当時、筆者も当該法案を目にしたとき、あまりにも厳しすぎるので、各国から猛反発が起こると思ったものである。しかし、ドイツを始めとする大手自動車メーカーから反発の声は上がらず、欧州自動車工業会(ACEA)から、2035年に内燃機関車を禁止するのは「合理的な方法ではない」と批判の声が上がった程度であった。

 これは、欧州委員会が「Fit for 55」法案提出前に、関係者にかなりの事前説明が済んでいたためであろう。また2021年当時は、2035年はかなり先であるとの意識が強かったかもしれない。しかし、次第に時間が経過するにつれ懸念も高まっていたようだ。それでも、2023年3月に欧州理事会は、2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案に最終合意し、今後は2035年以降もe-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを作ることが継続審議とされた。

 その後、2024年末にかけては、フォルクスワーゲンによる大規模な人員削減などがあり、雇用動向や市場動向について、ドイツの自動車メーカーを中心に、現行規制を維持することに対する懸念が高まっていた。

CAFE規制との関係

 今回、欧州委員会が自動車に関する規制緩和案を公表したが、欧州にはもう一つ重要な規制がある。それは、短期的なCO2排出削減を求める制度、欧州企業平均燃費規制(CAFE規制)である。

 現行のCAFE規制では、2025〜2029年に適用される2025年目標として、企業平均排出量が94g/kmに規定されている。これは2021年比で15%の削減に相当するものであり、既に法制化されている。従って、今回の欧州委員会による規制緩和案が提示されても、当該目標が見直される可能性は低いと考える。

 なお、現時点で、2025年目標である94g/kmを企業単位で達成しているのは、テスラやボルボなど限られたメーカーである。基準値を1g/km超過するごとに、販売台数1台当たり95ユーロ(約1万7500円、1ユーロ=184円換算)の罰金が科される仕組みであるため、今回の規制緩和が提示されても、自動車メーカーがCO2排出削減努力を緩める余地は少ない。

 実際、複数の自動車メーカーにおいて、BEVやPHEVの販売を進めても依然としてこの94g/kmという規制目標の達成が困難な状況がみられる。そのため、自動車メーカー間でCO2排出量を合算することを認める「プーリング(pooling)」制度が活用されており、不足分については他社から排出権を購入することで補填している。また、2025年目標については、本来であれば各年の平均で達成を判断すべきところを、2025〜2027年の3年間平均で達成すればよいとする時限的措置が導入された。

 このような影響もあるのだろうか、ACEAが2025年12月23日に公表した統計によれば、EU域内における2025年1〜11月までの乗用車新車販売台数は、BEVが166.2万台(前年同期比27.6%増)を示した。また、PHEVは91.2万台(前年同期比33.1%増)と大幅に伸長している。BYDをはじめ中国の自動車メーカーも欧州で現地生産を本格化しており、今後さらなる拡大が予想される(図2)。このように、欧州におけるEVシフトは減速どころか、堅調な状況にあるといえる。

図2 図2 BYDはハンガリーに新エネルギー車の工場を建設[クリックで拡大] 出所:BYD

 なお、CAFE規制の次期目標として、2030年には2021年比で55%削減というさらに厳しい基準が設定されている。自動車メーカーの中には、今回の規制緩和案を受け、2030年目標についても考慮すべきではないかと声が挙がる可能性はある。もっとも、CAFE規制は5年ごとに目標が設定されており、2030年目標の改訂が行われるとすれば2027年ごろが限度ではないだろうか。

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