自動車の“突然変異”に日系自動車メーカーはどう立ち向かえばいいのか和田憲一郎の電動化新時代!(21)(1/3 ページ)

欧米で電気自動車、プラグインハイブリッド車の話題が相次いでいる。また中国では2015年に33万台を超える電気自動車やプラグインハイブリッド車など新エネルギー車が販売され、世界のトップに躍り出た。しかし、日系自動車メーカーの動きは鈍いように思える。今、われわれはどこに立っているのか、また今後どのように考え、どうすべきなのか。

» 2016年05月11日 10時00分 公開

 各メディアから既報の通り、Tesla Motors(テスラ)の新型電気自動車(EV)「Model 3」は、発表3週間で約40万台の予約を集めた。発売は2017年末とまだ1年半以上もあるにもかかわらずである。筆者は、発売前までに約100万台の予約が集まるのではと推測する。

 また、General Motors(GM)も「Bolt EV」を3万7500米ドル(約408万円)の価格と走行距離200マイル(320km)以上の仕様で2016年末に発売することをアナウンスした。これもかなり話題を集めるのではないだろうか。Ford Motor(フォード)もこれに負けじと、200マイル(320km)以上走行可能なEV開発を行っていることを明らかにした。欧州はドイツ自動車メーカーを中心に、各社がEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の戦略を練り、今後連続的に発売することを公表している。

 お隣の中国でも、EVやPHEVなど新エネルギー車(以下、新エネ車)の2015年の販売台数は33万1092台と、日本のEV/PHEV販売台数2万5328台の10倍を超える台数を記録した。車種ごとに見ればまだローカル車にとどまるレベルのクルマも多く、ある意味、玉石混交といえる。しかし、2020年には200万台の目標を掲げており、2016年の新エネ車販売は60万台を超えるものと予想される。特に、2016年は習近平氏が国家主席として立案した第13次5カ年計画の初年度にあたり、新エネ車は国家の重要政策として力を入れている。

 このように欧米中で活発な動きがある中、日系自動車メーカーの動きは鈍いように思える。そのような状況下、自動車産業は、多くのこれまでにない要素が要求され、どこにどのように進めばよいのか、方向性を見失い、行き詰っているように見受ける。今、われわれはどこに立っているのか、また今後どのように考え、どうすべきなのか、過去の歴史に鑑み、筆者の考えを述べてみたい。

自動車は行き詰ってしまったのか

 振り返ると約10年前の2005年当時、ちょうど筆者がEV開発に参画した時期であったが、その当時は将来の自動車産業に関して展望があったように思える。将来どのようなパワートレインが主流になるのか、環境対応車はどうあるべきか、産官学でかんかんがくがくの議論を行い、その結果として1つのロードマップが示された。

電池技術を基盤としたゼロエミッション化に向けてクルマの進化が進んでいく 電池技術を基盤としたゼロエミッション化に向けてクルマの進化が進んでいく (クリックして拡大)

 それによれば、環境・エネルギー対応自動車の進化の方向として、よりCO2を使わない、かつ排気ガスがでないゼロエミッション化の方向に進んでいくことが確認された。内燃機関→ハイブリッド車(HEV)→PHEV→EV/燃料電池車(FCV)の流れに関して、実現時期は各社に委ねられるものの、おおむねこの方向で環境・エネルギー対応車が進んでいくことが共通の理解となった。10年経過した今、この策定は先見の明があり、世界の自動車メーカーがこのロードマップに沿って進んでいることはその証左であろう。

 残念なのは、日系自動車メーカーの対応が中途半端にとどまっていることではないだろうか。HEVは依然としてトップを走っている一方、EV/PHEVでは最初は先頭を走ったが首位をキープできずに欧米中に台数規模で追い抜かれてしまった。FCV分野といえども、うかうかしていられないだろう。

 一方、連日報道されている自動運転車に関していえば、実現のためにはIoT(モノのインターネット)と親和性が高いEVが必須となる。Google(グーグル)などもEVを自社開発して走行試験を実施しており、今後EVを自社ブランドで持っていないと、この面でも欧米中に後れを取るであろう。

 これに関して、日系自動車メーカーは、のんきに構えていたとはいわないが、円安で企業収益が潤っていたこともあり、安堵感に浸っていた面はなかっただろうか。また、自動車関係者、特に企画畑の人と話をしていると、「あれもこれもと多様なことを要求されており、何をどうして良いのか分からない」との声を聞く。戦略を徹底せず、あれもこれもと手をつけると、円高による逆回転、そして欧米中の台頭により、日系自動車メーカーが苦境に陥る可能性も否定できない。

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