フィンランド発で、モビリティのサービス化を示す「MaaS(Mobility as a Service)」という一大ムーブメントが起こってきた。公共交通機関やレンタカー、タクシー、レンタサイクルなどを組み合わせて、人の移動をシームレスに行うサービスを示す言葉だ。では今後、MaaSが普及すると、モビリティやサービス変革のみならず、都市交通や都市計画にどのような影響を及ぼすのだろうか。関係者にヒアリングを行った。
フィンランド発で、モビリティのサービス化を示す「MaaS(Mobility as a Service)」という一大ムーブメントが起こってきた。公共交通機関やレンタカー、タクシー、レンタサイクルなどを組み合わせて、シームレスに一括で予約と決済ができるサービスだ。
日本においても、MaaSについて多くの企業や大学が研究を開始している。さらにMaaSは、単なるモビリティやサービス変革にとどまらない。では今後、MaaSが普及すると、都市交通や都市計画にどのような影響を及ぼすのだろうか。
今回は、最初に技術革新中長期ビジョンとして「モビリティ変革」を掲げる東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)の方々、そして後半は都市交通計画がご専門である、国立大学法人 横浜国立大学 理事 副学長 教授の中村文彦氏にお話を伺った。
JR東日本で取材させていただいたのは、総合企画本部の中川剛志氏と山口智丈氏、JR東日本研究開発センターの日高洋祐氏だ。
和田憲一郎氏(以下、和田氏) JR東日本では「技術革新中長期ビジョン」で「モビリティ革命」を掲げ、その実行に向けて2017年秋に設立した「モビリティ変革コンソーシアム」の活動を開始したと聞いている。これらの活動のいきさつや、その中で示されている「Door to Doorサービス」について教えていただきたい。
中川氏 まず技術革新中長期ビジョンについて説明したい。少子高齢化やグローバル化、ビッグデータ、AI(人工知能)などを総合的に考えると、今は時代の変革点に来ている。またドイツではインダストリー4.0など新しい産業革命が起きそうだ。それらに加えて、自動運転やカーシェアリングなど交通業界も大変革を迎えている。そのような中でJR東日本も、今までのように駅から駅までお客さまをお運びするだけで良いのかと考え、R&D部門として新しい形でビジョンを出すべきだという結論に至った。
少子高齢化による人口減少は、公共交通に大きなインパクトがある。また、自動運転やカーシェアリングが進展すると、これまでの公共交通とのすみ分けが崩れ始めてしまうことを懸念している。
例えば、これまでは目的地に早く行けることが価値だったが、自動運転車で寝ている間にオフィスに着くのであれば、それで構わないということになってしまうと考えられる。これまでは鉄道で大量かつ安全・安定した輸送を提供させていただいているが、それ以外の価値がどんどん増加してくる中で何もせずに指をくわえて見ていると、知らぬ間に鉄道の利用頻度が下がってしまうと思われる。
中川氏 東京に住んでいると他の世界が分からないという声が社内にある。例えば、日高が研究しているMaaSやDoor to Doorサービスは、欧州などでかなり議論をされている。鉄道会社がDoor to Doorサービスに参画することも珍しくない。
MaaSの概念は、数年前にフィンランドから始まり、日本ではここ半年ぐらいから広まってきた。このような社会的背景、技術的進化をとらまえて、われわれが何をすべきかということでビジョンを提案させていただいた。
それを実現するための方策として、2つ考えている。1つはクラウドシステムプラットフォームの構築だ。鉄道会社は日々多くのデータを活用しながら安全安心に努めているが、従来は日が過ぎてしまうと捨て去るデータもあり、必ずしもデータを溜めて分析することが十分できていなかった。そのため、今回はビッグデータ分析のシステムを構築したいと考えている。
もう1つは、オープンイノベーションをよりドラスチックに進めるために設立した「モビリティ変革コンソーシアム」だ。これは2017年度から2022年度までの5年間をめどにしている。現在の参加数は105社・団体まで拡大した。
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