理化学研究所は、ハエの脳信号を解読し、探索行動に関わる記憶/運動/視覚の異なる情報を区別して伝える並列神経回路を発見した。
理化学研究所は2017年9月5日、ハエの脳信号を解読し、探索行動に関わる記憶/運動/視覚の異なる情報を区別して伝える並列神経回路を発見したと発表した。同研究所脳科学総合研究センター チームリーダーの風間北斗氏と研究員の塩崎博史氏らの研究チームによるもので、成果は同月4日、国際科学誌「Nature Neuroscience」電子版に掲載された。
今回研究チームは、小さな脳で巧みに探索行動をとる体長約3mmのキイロショウジョウバエの成虫(ハエ)に着目した。探索行動を担う脳の情報処理を調べるため、まず、ハエ用のバーチャルリアリティー(VR)装置を作製した。この装置は、固定したハエの羽ばたきに応じて景色を変化させることができる。
同装置を使ってハエの探索行動を調べたところ、ハエは今見ている景色だけでなく、数秒前に見た景色の記憶を使って次にどこへ飛ぶかを決めていることを発見した。また、探索行動に関わる情報を表す脳活動が「バルブ」という脳中枢につながる部位で見られ、同部位の活動を抑制するとハエの記憶能力が損なわれることが分かった。
そこで、VR空間を探索するハエの脳活動を記録したところ、バルブに存在する特定の神経細胞群が、物体が数秒前にどこにあったかという記憶の情報を伝えていることが分かった。別の細胞群は、自分が今どちらに旋回しているかという自己運動の情報伝達を担っていた。2つの細胞群は、いずれも今見えている物体の位置情報も伝えていた。つまり、バルブは記憶/運動/視覚という3種類の情報を伝えており、このうち記憶と運動の情報は異なる細胞群によって伝えられていることが分かった。
最後に、これら2種類の細胞群が情報を受け取る入力元と出力先を解析した。その結果、記憶と運動の情報が並行して走る、独立した2つの神経回路によって情報が伝達されていることが明らかになった。
今回発見された並列神経回路は、探索行動に関わるさまざまな情報を混線することなく、探索中枢へ運ぶ役割を果たしていると考えられる。今後、神経回路を伝わる、記憶/運動/視覚などの複数の情報がどのように統合され、行動に影響を与えるかを解明することで、動物が効率的に餌や交配相手を見つけ出す仕組みの理解につながることが期待できる。
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