京都大学は、大脳皮質において、互いに矛盾する2つの聴覚情報は統合して処理するのではなく、別々の状態のまま扱われていることを確認した。
京都大学は2017年9月1日、大脳皮質において、互いに矛盾する2つの聴覚情報は統合して処理するのではなく、別々の状態のまま扱われていることを確認したと発表した。同大学医学研究科 准教授のAltmann Christian氏らの研究グループによるもので、成果は同年7月27日に米科学誌「NeuroImage」に掲載された。
目隠し鬼ごっこのように、聴覚だけを頼りに音源の位置や動きを判断する場合、人間の聴覚は主に2種類の手掛かりを使う。音源が右に動く時、音波は左耳より右耳に早く到来し(時間差手掛かり)、同時に右耳により大きく音が入る(レベル差手掛かり)。通常、この2つの手掛かりに矛盾はなく、それによって音源の位置をある程度正確に判断できる。しかし、実験的操作によって、互いに矛盾する方向に2つの手掛かりを聞かせると、音は一般に正面に静止しているように知覚される。
人間の大脳皮質では、こうした2つの手掛かりに関する聴覚情報が、別々に扱われているのか、統合して処理されているのかは、これまで解明されていなかった。
今回の研究では、一方の手掛かりは右方向への移動に、もう一方の手掛かりは左方向への移動に対応するように変化させ、矛盾する2つの手掛かりを聞いた時の脳波を計測した。もし、大脳で知覚に対応するような処理が行われていれば(情報の統合)、矛盾した手掛かりが提示された場合は静止した音源に対応するような反応が生じ、矛盾しない(2つの手掛かりが同方向に変化する)場合には、移動する音源に対応する反応が生じると仮定した。
実験の結果、矛盾した手掛かりを提示した場合も、矛盾しない場合も、基本的に同様の反応が得られた。つまり、大脳皮質のような比較的高次の聴覚情報処理の段階においても、2つの手掛かりは別々に扱われていることが分かった。
これらの手掛かりの優位性は、周波数帯域ごとにある程度異なる。そのため、聴覚系の全ての段階で、2つの手掛かりの情報を統合しない状態で維持するのは、知覚情報処理の効率を最適化するための脳の戦略と考えられる。
2つの情報それぞれが、具体的にどのような形で処理されているかを理解するには、より詳しい研究が必要となる。この仕組みを解明することで、効果的な聴覚情報提示ディスプレイの開発や、脳機能障害の診断につながる可能性があるとしている。
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