京都大学らは、新型コロナウイルスの宿主細胞内での子孫ウイルス粒子形成を阻害する新規化合物を発見し、動物実験でその治療効果を確認した。化合物の作用標的やメカニズムも解明している。
京都大学は2025年3月28日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の宿主細胞内での子孫ウイルス粒子形成を阻害する新規化合物を発見し、動物実験でその治療効果を確認したと発表した。この化合物が、既存の医薬品とは異なるメカニズムで作用することも解明した。ルーヴェン・カトリック大学が主導する国際共同研究グループによるもので、日本からは同大学と東京大学が参加した。
研究グループは、SARS-CoV-2に感染させたヒト培養細胞を用いた実験により、細胞への影響を最小限に抑えながらSARS-CoV-2の増殖を強く阻害する化合物を選び出した。さらに、この化合物の類似体合成と抗ウイルス試験のサイクルを繰り返し、より効果の高い新規化合物「CIM-834」を開発した。
ウイルス感染ヒト培養細胞を用いた試験でCIM-834を調べると、CIM-834は広範なSARS-CoV-2変異株の増殖を阻害する他、2002年に流行した重症急性呼吸器症候群コロナウイルスSARS-CoVの増殖も抑えた。SARS-CoV-2を経鼻感染させたラットとマウスにCIM-834を経口投与したところ、明らかな個体内ウイルス増殖抑制効果や個体間の感染抑制効果が認められた。
これまでの研究で、SARS-CoV-2エンベロープ(外側の膜)上に存在し、ウイルス粒子形成に必須の膜タンパク質である「Mタンパク質」には、short formとlong formと呼ばれる2つの異なる生理的準安定構造が存在することが確認されている。
CIM-834のメカニズムを解析したところ、CIM-834はshort formにのみ特異的に結合し、宿主細胞内での子孫ウイルス粒子の形成を完全に阻害することが判明した。つまり、ウイルスのゲノムRNAやタンパク質など個々の構成因子は細胞内で合成されるが、CIM-834がMタンパク質に作用して分子の動きや働きを抑えることで、子孫ウイルスの組み立て過程に障害が生じ、増殖が阻害される。
現在、新型コロナウイルス感染症の治療薬は、特定のウイルスタンパク質を標的とする2種類が開発されているが、薬の飲み合わせの問題や静脈内投与の必要性などから使用は限定されている。
今回の研究は、新型コロナウイルスの外側の膜にあるMタンパク質が治療薬の新しい標的になる可能性を示した。その標的を狙う新しいタイプの治療薬候補であるCIM-834が、今後、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発において重要な役割を果たすことが期待される。
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