電動化だけでなく、自動運転車も要素技術の開発ターゲットだ。報道向けには、生体センシングによる感情検知と、自動運転車の認知と判断を担うAI技術を紹介した。
研究中の生体センシングは、前頭葉の血流の変化からドライバーの活性状態とリラックス状態を識別するものだ。感情が変化すると大脳辺縁系がホルモンを分泌、そのホルモンによって脳の表面部分の血流が増減することに着目している。血流の測定に使うセンサーはサンバイザーの額部分に組み込んでおり、装着しやすく拘束性も低い。センサーは額の4カ所から光を当てて血流の変化を測る。
現在は、検出した活性状態がどのような感情によるものか検証を進めている。感情を検知するのは、自動運転車に乗る人を安心、快適な状態に導き、その状態を維持するための指標となるからだ。脳血流以外には表情や心拍数が感情検知に役立つという。センサーを身に付けずに脳血流を測定する手法の検討や、変動しやすいが変動幅の小さい心拍数からどのように感情を検知するかといった課題もある。
この他にも、バス会社と協力してアロマで眠気を解消する取り組みを実施し、リラックスできて快適だが眠くならないような車室内空間の研究を進めている。
AI技術の開発は、アルゴリズムを車載システムに取り入れることと、実装に最適なアーキテクチャの検討の両面を協調して進めている。報道向けには車線変更時の判断を担うアルゴリズムを公開した。
車線が減少するため合流しようとするシーンで、隣の車線を走行する車両との間合いを測りながら合流のタイミングを見計らうシミュレーションだ。アルゴリズムは、ウインカーを点灯させて車線に寄せながら車線変更の意思があることを示したり、譲ってくれる車両がおらず最後尾が過ぎるのを待ったりした。このアルゴリズムは、1年以内にも実車での評価が可能だという。
さらに、ディープラーニングによる物体の識別をFPGA上で動作させる様子も紹介した。車椅子を含む歩行者、大小の動物、車両を見分けた。
AIについて「ある技術は重要なので内製したくなる分野ではある。しかし、良いものが発表されれば3〜4カ月で見極めて、共同開発の契約を結んだり、対価を払ったりしていく。内製することではなく、市場投入の速さを優先していく。内製で実用化に必要な期間とヒトと、社外から取り入れる対価や共同開発のスピードを比べたら、速く安く終えられる場合も当然ある。そうなれば社内での開発はやめることになるだろう」(加藤氏)。
加藤氏は先端技術研究所が扱う研究テーマについて「半導体や材料の技術は1年で大きく変わることはない。変化の予兆があり、市場投入までの期間が長いのでロードマップを立てやすい。ただ、モビリティの使われ方を考えると、ある日突然新しい取り組みが生まれ、5年以内にもプレイヤーが変わることが十分にあり得る。ロードマップを立てるだけでなく、技術を入れてフィードバックを得てそれを還元するようなショートサイクルの開発にも対応できなければならない」と説明した。
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