今回のシンポジウムで、目玉となったのがToyota Reserch Institute(TRI)のCEO、ギル・プラット氏の基調講演だった。その主な内容は、TRIの傘下で新設した、ベンチャーキャプタルファンド「Toyota AI Ventures」についてだった。1億米ドル(約113億円)の資金で、AI(人工知能)やロボティクスなどの基礎研究分野における世界各国のベンチャーに投資を行う。
基調講演の後、筆者はホテル別室で行われたメディア向けのラウンドテーブルに出席した。参加したのは米国の経済・金融系メディアや自動車媒体で、日本から参加したのは筆者1人だった。
この中で、プラット氏とTRIの投資担当幹部は、トヨタ自動車本社とTRIとの密接な関係を強調した。投資先については、基本的にTRIに一任されており、IT産業の“しきたり”に沿った即断即決の姿勢でトヨタにとっての近未来技術の基盤要素を、広く社外に求めているという。
また、金融系媒体の記者から質問された1億米ドルという金額の規模感についてTRI側は「ファンドの資金としては決して大きな規模ではないが、トヨタ自動車本社の財務担当役員と直接交渉するなかで、投資金額について今後もフレキシブルに検討している」と語った。
また筆者が、NVIDIAとトヨタ自動車との連携について尋ねたところ、プラット氏は慎重に言葉を選びながら、あくまでもトヨタ自動車本社とNVIDIA本社との技術連携の1つであるとし、TRIとNVIDIAとの実質的な関係については触れようとしなかった。
繰り返すが、今回のAUVSI自動運転シンポジウムは、開催規模が大きくなったのは事実だ。しかし、講演は一般論が多く、自動運転の今後に対する米国政府や米国自動車メーカーの姿勢が明確には示されなかった。
これを単純に、トランプ氏の不鮮明な政権運営に直結させて考えて良いものなのか?
同シンポジウムを毎年取材している筆者としては、トランプ政権の動きを踏まえて自動運転に関する世界の“風が変わった”と感じた。
2013年頃から一気に盛り上がり、無人運転などを含めて加熱報道だけではなく、企業間や国どうしの競争も過熱してきた自動運転。その流れはいま、明らかに大きく変わり始めていることは確かだと思う。
桃田 健史(ももた けんじ)
自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。近刊は「IoTで激変するクルマの未来」。
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