1年で風向きが一気に変わった――。米国で例年開催されている自動運転に関するシンポジウム「Automated Vehicle Symposium 2016」。直前に起きたTesla Motorsの自動運転機能付きモデルの事故の影響もあり、米国の政府関係者らは“Safety First”を強く打ち出す姿勢を取り始めた。3日間のシンポジウムを取材した筆者のレポートをお送りする。
米国政府の自動運転に対する姿勢が、大きく変わった。2015年までとは異なり、「Safety First(安全第一)」を強調するようになったのだ。こうしたトレンドを、AUVSI(Association for Unmanned Vehicle Systems International)主催の「Automated Vehicle Symposium 2016」(2016年7月19〜21日、カリフォルニア州サンフランシスコ)に世界各地から参加した約1200人の自動車業界・IT業界・行政関係者が一様に感じ取った。
AUVSIは、無人偵察機や無人爆撃機、無人爆弾処理ロボット、そしてドローンなど、軍需を主体としたUnmanned Vehicle(無人移動体)について産学官が連携して話し合う団体で、米国の国防総省とつながりが強い。2011年からは、自動運転に特化したシンポジウムを、政府系の交通政策の研究機関、TRB(Transportation Research Board)と共催している。
同シンポジウムの参加者は年々増加している。主催者発表では、2014年が550人、2015年が862人、そして今回は1176人に達した。そのうち79%が米国国内からの参加で、地元カリフォルニア州からは375人、自動車産業が集約するミシガン州が97人、そして行政機関が多いワシントンDCとヴァージニア州が続いた。残りの21%は世界25カ国から足を運んだ参加者で、このうち日本人が最も多かった。
今回のシンポジウムを前にして、自動運転に関する大きなニュースがあった。2016年5月にフロリダ州で発生したTesla Motors(テスラ)「モデルS」の死亡事故だ。モデルSを運転していた40歳の男性が、一般道路の本線に進入してきた大型トレーラーに激突。車体がトレーラーの下に食い込み、車体上部が完全にもぎ取られるという悲惨な状況に陥った。この事故の際、ドライバーはテスラの運転支援機能「オートパイロット」を使用していた可能性が高い。
この事故については「米国運輸省の国家道路交通安全局(NHTSA)は自動運転システムの設計や性能に問題がなかったかを検証する予備的な調査に入り、テスラもこれに真摯に協力する」(テスラジャパンによるテスラ本社ブログの翻訳)と調査が進められている。
テスラの事故はさらに連続して発生した。2016年7月6日には「モデルX」がペンシルベニア州で衝突事故を起こした。現時点でオートパイロットが作動中だったかどうかは、テスラ側は未確認だ。テスラは事故を起こした所有者と連絡がつかないと説明している。
また、同年7月12日にもモンタナ州でオートパイロット作動中の「モデルX」による衝突事故が発生した。テスラによれば、センサーデータを基に、ドライバーが事故当時、ステアリングから手を離していたことが確認できているという。これは購入時に契約した「オートパイロットの作動時に必ずステアリングを握ること」という項目に違反するものだと説明した。
こうした直近のテスラの各事案は、自動運転に対する社会受容性や、自動車メーカーが消費者に対して負う説明責任や義務の在り方など、さまざまな問題を提起した。その上で最も重要なことは「Safety」であると、米国政府も強く認識したことは間違いない。
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