シンポジウムの開催期間中、米国の大手自動車関連メディアであるAutomotive News Webサイトは、2017年7月第3週にも自動運転の実証試験と販売の規制緩和を盛り込んだ法案を下院で可決する可能性が高いと報じていた。
こうした米国議会周辺の動きについて、ワシントンDCに拠点を持つ大手日系企業のロビイストと意見交換したところ、極めてネガティブな見立てを聞かせてくれた。「自動運転の規制緩和法案は下院に続いて上院でも可決され、法案は成立するだろう。だが、NHTSA長官不在という現状を含めて、トランプ政権の交通・自動車政策の動きは事実上止まっており、今後の動向の予測がつかない」というものだった。
この他にも、シンポジウムで意見交換した米欧日韓中の自動車メーカー関係者やコンサルタントの多くが「トランプ政権の自動運転に関する今後の考え方がどうなるのか、よく分からない」と語ると同時に、今回のシンポジウムに「熱気がまったくない」と指摘した。
自動車産業界、または自動車行政の関係者がごく自然な考え方をすれば、今回のシンポジウムでは、2016年に発表した自動運転ガイドラインのバージョン2についての議論がなされて当然だと思う。
これは、欧州での動きを考えても、そうなるはずだ。ドイツの道路交通法に相当するStrassenverkehrsgesetzは2017年6月21日に改正されたばかり。SAE(米国自動車技術会)のレベル4に該当する自動運転に関する規制緩和や、自動運転における自賠責保険の在り方の見直し等が盛り込まれた。このドイツの動きは、2016年3月に国連の道路交通安全作業部会(Working Party1:WP1)で発効した、ウィーン条約改正における道路交通法の新しい解釈に沿ったものだ。
ウィーン条約には日本と米国は加盟していない。日米が加盟するジュネーブ条約においては自動運転に関する条項を含んだ改正には“長い道のり”が待ち構えている。
ドイツ勢は、ウィーン条約改正を欧州内の本格的な自動運転時代の到来と捉える。自動車メーカーではAudi(アウディ)が2017年7月、世界初となるレベル3の自動運転機能を搭載した新型「A8」をバルセロナで開催した自社イベントで披露した。現状では、作動条件について「中央分離帯のある道路での時速60km以下で走行中」とアウディ自身が自主規制をしている状況だが、レベル3機能の上限の機能を各地域の規制緩和に連動して自動運転機能をカスタマイズすることになる。
そうした中で、ジャーマン3が高額モデルの販売台数の多い米国市場でロビー活動を強めることは当然である。しかし、NHTSA長官は不在、さらには混迷する大統領のドナルド・トランプ氏の政権下という状況で、ジャーマン3はどんな手を打っていくのか。
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