新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、革新型蓄電池プロジェクト(RISING)の東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループが、中性子線を用いて蓄電池内部の挙動を非破壊かつリアルタイムに観測し、自動解析するシステムを開発し、充放電時の内部挙動を原子レベルで解析することに成功したと発表した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2016年7月1日、革新型蓄電池プロジェクト(RISING)の東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループが、中性子線を用いて蓄電池内部の挙動を非破壊かつリアルタイムに観測し、自動解析するシステムを開発し、充放電時に起こる蓄電池内部の挙動を原子レベルで解析することに成功したと発表した。このシステムを活用して蓄電池の耐久性や安全性に関する詳細な情報が容易に得られるようになるため、蓄電池の開発に向けたさらなる高性能化への展開が期待できるという。
RISINGは、電気自動車の普及に向けて現状比5倍のエネルギー密度を持つ革新型蓄電池を実現する基礎技術の確立を目指して、2009〜2015年度まで実施されたNEDOの共同研究事業である。その一環として挙げられていたのが、電池の基礎的な反応メカニズムの解明である。
RISINGに参画していた東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、京都大学の研究グループは、リチウムイオンなどの軽元素の観察を得意とする中性子線を用いて、実動作環境下(オペランド測定)における電池内部の挙動を非破壊かつリアルタイムに観測し、そのデータを自動解析するシステムを開発した。また、開発した解析システムを活用し、実用電池の内部で生じる不均一かつ非平衡状態で進行する材料の複雑な構造変化を原子レベルで解析することに成功した。
この分析システムは特殊環境中性子回折計「SPICA:BL09」で、大強度陽子加速器施設「J-PARC」(茨城県東海村)内に設置されている。J-PARCで得られる、リチウムや水素といった電子数の少ない軽元素も敏感に検知できる透過性の高い中性子線を用い、充放電過程における電池内部の電気化学反応およびその反応に対応した電極材料の構造変化を観測できる。SPICA:BL09の最大の特徴は、電池特性を決める鍵となるリチウムイオンなどの軽元素の挙動を非破壊かつ実作動条件下で定性/定量的に観測できることだ。
実作動条件下における電池内部の反応を観察できるSPICA:BL09の性能を確認するため、実用電池の中でも一般的な18650型の円筒リチウムイオン電池を用いて、0.05〜2Cレートで充放電を行いながら中性子回折測定を行い、正極/負極の構造がどのように変化するかをリアルタイムに観測した。
その結果、負極では不均一な電池反応が進行し、高レートでは反応に寄与しない相が発生することや、充電と放電で反応機構が違うことが明らかになるとともに、正極では放電時に使用される組成領域が高レートでは変化することなどが分かったという。「充放電時に不均一かつ非平衡に進行する電池反応を、世界で初めて観察することが可能になった」(NEDO)。
実際の充放電時に、リアルタイムで蓄電池の内部の材料の構造変化を観測できれば、充放電サイクルに伴う劣化挙動、長期保存時の経時変化、高温や低温での使用時の劣化挙動など、耐久性や安全性に関する詳細な情報を容易に得られる。現在電気自動車に用いられているリチウムイオン電池のみならず、開発が進んでいる全固体電池など次世代の蓄電池の反応挙動の解明が可能になり、さらなる高性能化にもつなげられるとしている。
SPICA:BL09は、2016〜2020年度で計画されているRISINGの後継プロジェクト「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISINGII)」でも活用される見込みだ。
なお、この研究成果は、2016年6月30日発行の英国科学誌「サイエンティフィックリポーツ」に掲載された。
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