新エネルギー・産業技術総合開発機構は、走行距離500kmの電気自動車を実現可能な車載用蓄電池の開発に着手する。2030年をめどに、リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度500Wh/kgを実現可能な“革新型”蓄電池を自動車に採用できるようにする。自動車メーカーや電池メーカーが実用化に取り組める段階まで電池セルの仕様を明確にする。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2016年5月18日、東京都内で会見を開き、走行距離500kmの電気自動車を実現可能な車載用蓄電池の開発に着手すると発表した。2030年をめどに、リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度500Wh/kgを実現可能な亜鉛空気電池や硫化物電池、ナノ界面制御電池のいずれかを自動車に採用できるようにする。コストは「1kWhあたり1万円」(NEDO)を目指す。NEDOの事業として2020年度までに総額150〜180億円を投じて、自動車メーカーや電池メーカーが実用化開発に取り組める段階まで前述した電池のセルの仕様を明確にする。
リチウムイオン電池はエネルギー密度に限界が見えてきた。「理論上は450〜600Wh/kg、車載用で実用化できるレベルでは電池パックで250〜350Wh/kgだろう」(NEDO)とする。リチウムイオン電池の限界は、電気自動車の走行距離の限界でもある。
政府のエネルギー基本計画では2030年までに、ハイブリッド車や電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車など次世代自動車が新車販売に占める比率を7割まで引き上げる目標だ。また、「自動車産業戦略2014」においては、電気自動車やプラグインハイブリッド車が新車販売に占める比率を2030年に30%まで増やすことを目指す。NEDOは、これらの目標を実現する水準まで電気自動車が普及するには走行距離の延長が不可欠だとし、リチウムイオン電池の性能を上回る“革新型”蓄電池の開発に取り組む。
開発対象となるのは、エネルギー密度300Wh/kgが可能なことを検証済みの亜鉛空気電池と硫化物電池、ナノ界面制御電池だ。2009〜2015年度に取り組んだ「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)」の中で、これら3つの蓄電池であればエネルギー密度500Wh/kgを達成し得ると結論を出した。
2016〜2020年度までに取り組むのは「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISINGII)」で、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業の成果を基にこれら3つの蓄電池の実用化に必要な共通基盤技術を開発する。電気自動車の走行距離を500kmまで引き上げられるエネルギー密度を実現するだけでなく、車載用として必要な耐久性や安全性の両立も目標の1つとなる。そして、容量5Ah級の電池セルを実際に試作して、車載用蓄電池に適用可能なことも検証する。
2020年度までのRISINGIIでは、生産技術は開発せず、亜鉛空気電池/ナノ界面制御電池/硫化物電池に共通して求められる基盤技術を確立する。アニオン移動型の亜鉛空気電池とハロゲン化物のナノ界面制御電池は、フッ化物材料の創製や表面処理を、カチオン移動型の硫化物電池とコンバージョンのナノ界面制御電池は高エネルギー負極材料の創製などがテーマになる。
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