「東京モーターショー2015」における各自動車メーカーの展示内容やコンセプトカーをプロダクトデザイナーが斬る。トヨタ自動車、日産自動車、メルセデス・ベンツ、マツダなどの展示から感じた「Car」と「Automobile」の違いとは?
さまざまなコンセプトカーや近い将来発売されるクルマを一度に俯瞰(ふかん)することのできるモーターショー。例のごとく今回の「東京モーターショー2015」についても、出展各社が描く未来を見たくて出掛けてきた。スーパーカーや高級車ブランドは出展していない、ということが当たり前の景色のようになってきているのは残念ではあるが、数多くのメーカーやブランドの今と未来へのビジョンを一度にみることができる場は他にない。
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会場をぐるっと歩いてみると、今回も幾つもの新しい芽を感じることができた(例によって、公正な報道レポートではなく、個人的興味の切り口から見えた私見の書き連ねであることは、これまでの筆者の記事と同様である)。
ここしばらくの東京モーターショーでは、さまざまなタイプの「エコカー」の可能性や技術見本としてのコンセプトカーの展示が多かった記憶だ。今回は、少し様子が変わってきたように思う。燃料電池車などの電動自動車やハイブリッド車の「すごさ」とか「未来感」を訴求するプレゼンテーションは少なくなった。動力源の新しさは訴求要素の1つになり、クルマの在り方に視点を置いたプレゼンテーションが目立った。
「クルマの在り方」と書くとかしこまった感じだが、筆者がシンプルに感じたのは、パッセンジャーカーの中でも、「Car」と「Automobile」との違いがより明確になってきたなぁということだった。CarとAutomobile、言語としての用法や辞書的に正しいかどうかは別として、人が自分で操り、走らせる楽しみや、自分で持つうれしさといった「所有したくなる理由(買う理由)」を要素に持つCar=クルマと、あくまで移動のツール、必ずしも自分が所有しなくてもいいAutomobile=乗り物という区切りがなんとなく自分の中にあり、それをより感じるモーターショーだった印象だ。
CarとAutomobile、当然ながら全方位的に見せるメーカーもあれば、どちらかに寄せているメーカーもある。全方位性を今回の会場で一番強く感じたのはメルセデス・ベンツだったかもしれない。
メルセデス・ベンツは「F 015 Luxury in Motion(以下、F 015)」と「Vision Tokyo」という2台のコンセプトカーを出展した。F 015は、近未来のラグジュアリーサルーンを、Vision Tokyoは近未来のメガシティビークルを再定義しようしているという。どちらも自動運転時代が下敷きとなっており、この時にはクルマは移動するリビングになるとしている。
F 015では、2030年以降の未来都市の姿として自動運転が生活の一部となり、自動運転車だけが通れる「セーフティゾーン」が設けられた世界でのラグジュアリーサルーンがテーマとなっている。移動するリビングとして、4つのゆったりとしたラウンジチェアが配された室内空間が主役だ。プレス資料によると「優雅で高品質、明るく快適なラウンジのようなスペース」と表現されている。未来の「Sクラス」を想定した1つのリサーチといったところだろう。
F 015の前世代のスタディであるコンセプトカー「F 125!」は、外観もいわゆる押し出し感を持たせたSクラスの進化形といった感もあったが、F 015では主張しない塊を目指しているようにも伺えるのは印象的だ。近未来においては、Sクラスといえどもユーザーに所有してもらうことが、必ずしもメルセデス・ベンツのビジネスではないと考えているからかもしれない。
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