今回はスズキとダイハツ工業で展示内容が大きく異なったのが面白かった。スズキはCarであることに拘りを見せ、ダイハツはどちらかというとAutomobileとしてのスモールカーの可能性を提案した。
スズキでは、コンパクトクロスオーバー「イグニス」にスズキの新しいデザインがまとまってきている印象を受ける。現行アルトから続く流れと見て取れるが、ボディサイドのグラフィックはアルトとも似たものを感じつつ、幅方向のサイズに余裕がある分、ボディ面とフェンダーにより豊かに張りを持たせていることで、シンプルながら目をひくデザインができ上がっている。間もなく市販されると思われるので、路上で他のクルマや街の景色の中での見え方がどのような印象を受けるのか興味がある。
一方のダイハツの展示では、クルマの乗り降りに拘ったコンセプトカー「NORI ORI」が主役であった。コミューターバスのスモールカー版といった感じのコンセプトカーであるが、高齢化が進むこれからを考えると、こういったスモールカーであるとか、クルマと歩行の間に位置するようなパーソナルモビリティの様な新しい乗り物もより重視されるであろう。
ホンダが提案していた「WANDOR WALKER CONCEPT」なども、「NORI ORI」と同じようにこれからのモビリティだ。そこには、モノの提案だけでなく運用の仕組みまでデザインされた提案も必要かもしれない。
今回の東京モーターショー2015でも新しい芽を感じ、個人的には行って良かったと思う。記事で書いていないブランドやモデルに関してや、素材や表面処理などのディティールでも興味をひかれたモノや要素は色々あった。その一方で少し気になったこともあった。
前回(2013年)の東京モーターショー会場は、前々回(2011年)の東京モーターショーよりは活気があるように感じた。今回は何となく空いてるという感じがあった。筆者はプレスデーの2日目に会場を歩いたのだが、特に外国人が少ない印象。プレスデー初日は結構混んでいる様子を伝える記事などもWebサイトで見かけていたので、会場に入ってみて少し意外な感じがした。
国際モーターショーの1つでありながら、海外メディアからは、プレスデー初日だけチラ見したら十分と思われているのであれば残念だ。出展社についても、「東京」は出す必要なしと判断している海外ブランドがあるのも同様に寂しい。これらの事実は、東京モーターショーは世界へ向けてメーカーの意志や情報を発信する場として“役者不足”であると判断されているという見方もできるからだ。
主催者のプレスリリースによると、開催期間中の一般入場者数は81万2500人で、前回の90%であったという(ちなみにその前の2011年、幕張からお台場に会場が移った最初の年の84万2600人よりも少ない)。リリースでは「閉幕日の天候影響などで、天候に恵まれた前回に比べ減少となりました」とあるが、果たしてそれが理由なのだろうかとも思う。主催者側の模索も続いているのだろうが、東京モーターショーはどこへ向かうのだろうか。
林田浩一(はやしだ こういち)
デザインディレクター/プロダクトデザイナー。自動車メーカーでのデザイナー、コンサルティング会社でのマーケティングコンサルタントなどを経て、2005年よりデザイナーとしてのモノづくり、企業がデザインを使いこなす視点からの商品開発、事業戦略支援、新規事業開発支援などの領域で活動中。ときにはデザイナーだったり、ときはコンサルタントだったり……基本的に黒子。2010年には異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。最近は中小企業が受託開発から自社オリジナル商品を自主開発していく、新規事業立上げ支援の業務なども増えている。ウェブサイト/ブログなどでも情報を発信中。
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