高度化の狙いは、静止衛星の打ち上げ能力を向上させ、国際競争力を強化することにある。現在、静止トランスファー軌道(GTO)からの静止化に必要な増速量(ΔV)はアリアン5の1500m/sが事実上の標準となっており、これを前提とした設計の衛星も多い。そこに1800m/sで提案を出してもほぼ「門前払い」で、これはもう「国際競争力」を語る以前の問題だ。
かといって従来のH-IIAでΔVを1500m/sまで下げようとすると、打ち上げ能力が半減してしまい、ほとんどの商業衛星に対応できなくなる。今まではこういう状況だったわけで、高度化により、ようやくスタートラインに立てるようになった、と見ることもできる。
ただし、商業衛星は大型化が進んでおり、高度化H-IIAであっても、ボリュームゾーンを全てカバーできるわけではない。今後、6トン級の大型静止衛星が増えるという予測もある。このクラスになると204型でも対応できず、次世代のH3ロケットを待つしか無い。
ちなみに高度化H-IIAのGTO打ち上げ能力について、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のパンフレット(リンク先PDF)には4.6トンという数字が出ているが、今回搭載する「Telstar 12 VANTAGE」の重量は約4.9トンだ。能力が足りないように見えるが、4.6トンというのは開発の最低目標であり、実際には十分な能力があるという。
ところで今回の打ち上げについて、三菱重工業は受注金額を明らかにしていないが、高度化H-IIAロケットのいわば初号機であるわけで、恐らく、通常よりも値下げしているものと思われる。今後、"通常価格"でコンスタントに受注できるようになるか。本当の勝負はそこからで、まずは29号機の打ち上げ成功で弾みをつけたいところだ。
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