東京大学とJAXAが、「はやぶさ2」とともに打ち上げた超小型探査機「PROCYON」(プロキオン)の運用状況を説明した。予定したミッションの大半はクリアしたが、エンジン停止に見舞われている。その打開策は。
東京大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2015年4月6日、記者会見を開催し、両者が共同開発した超小型探査機「PROCYON」(プロキオン)の運用状況について説明した。
PROCYONは2014年12月3日、小惑星探査機「はやぶさ2」の相乗り衛星の1機として、H-IIAロケット26号機で打ち上げられた、大きさ63(H)×55(W)×55(D)cm、重量約65kgの超小型探査機である。
はやぶさ2のほぼ10分の1の重さしかないものの、その機能は本格的。高速通信用のハイゲインアンテナや小惑星観測用の望遠鏡、そしてイオンエンジンまで搭載しており、まるで“ミニはやぶさ”と言えるような探査機なのだ。
PROCYONのミッションには、「ノミナルミッション」「アドバンストミッション」「科学観測」といった種類がある。前者2つは工学的、後者は理学的な内容である。
PROCYONの“主目的”といえるのはノミナルミッションだ。これは、超小型探査機のバス技術を実証すること。PROCYONは世界初の超小型探査機であり、搭載した電源系、通信系、データ処理系、姿勢制御系、推進系などバス機器が正常に機能し、超小型探査機が“使える”ことを証明する必要がある。これがPROCYONの最大の狙いだ。
通常、深宇宙に向かう探査機は、小型と言われるものでも数100kg以上。PROCYONはそれより1ケタ軽く、開発費は2ケタも安い。当然ながら、あまり大きな観測装置などは搭載できないが、超小型探査機は短期間・低コストで開発できるため、より挑戦的なミッションに対応しやすい。本格的な探査プロジェクトの前の先行探査にも使えるだろう。
PROCYONでバス技術が実証できれば、超小型探査機の実用化につながる。だが、技術的な大きな課題は、通信系と推進系だった。
地球と通信できないと、コマンドが送れず、観測データも受け取れない。全く何もできなくなってしまうのだが、超小型探査機だと、搭載できるアンテナのサイズや、使える電力に大きな制約があった。そこでPROCYONでは、深宇宙通信のノウハウを持つJAXAが通信系を担当。2AUの距離、つまり探査機が太陽の反対側に行っても、8bpsの通信が可能なXバンド通信系を開発した。
また探査機には、軌道を制御し、目的の天体に向かうための推進系が必要だ。だが、超小型探査機には、大量の燃料や、大きなエンジンを搭載することはできない。燃費が良く、なおかつ小型の推進系が求められるのだが、PROCYONではイオンエンジン(軌道制御用)とコールドガスジェットスラスタ(姿勢制御用)を統合した推進系「I-COUPS」(アイクーズ)を新開発し、搭載した。
ノミナルミッションを“100点満点”とすると、+αの“ボーナス”と言えるのがアドバンストミッションである。超小型探査機ながら、かなり先進的な技術チャレンジとなっているが、特に注目したいのが小惑星のフライバイ観測に挑むことだ。搭載する望遠鏡は口径5cmと小さいものの、数10kmオーダーまで接近して撮影することで、高分解能の画像取得が期待できる。
なお行き先の小惑星は、打ち上げ前にすでに候補が数個まで絞られていたが、今回の会見では、初めて「2000 DP107」に決まったことが明らかにされた。この小惑星は、地上からのレーダー観測によって、主星と衛星からなる連星であると推測されている。地球近傍小惑星(NEA)の中で連星は珍しく、観測対象としては非常にユニーク。2015年12月に地球スイングバイを実施し、2016年5月に小惑星近傍を通過する計画だ。
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