これら2つの問題については解決できたのだが、2015年3月中旬、今度はイオンエンジンのイオン源の方で高電圧異常が発生、運転を中断した。現在、復旧を進めているところであるが、運転再開の目処は立っていない。
原因の特定には至っていないが、最も有力なのは、イオン源の2枚のグリッド(イオンを加速するための電極)の間に微小な金属片が入り込み、ショートしているという説である。イオンエンジンは燃料を使う際にまずプラズマ化する。プラズマが金属の内壁を削ってしまうことがあり、これが原因となったことが過去の事例にもあった。
そのため、復旧運用では、この金属片の除去を目指す。対策としては、(1)グリッドに熱サイクルを与え、膨張と収縮を繰り返させる、(2)探査機に加速度を加え、回転したり止めたりする、(3)電圧を加えて金属片を焼き切る、といった方法を検討。リスクも考慮しながら、順次実施していく。
ただ、目的の小惑星に向かうためには、2015年12月に地球スイングバイを実施する必要があり、そのためには、イオンエンジンによる軌道制御が欠かせない。早く運転を再開しないと、地球スイングバイができなくなってしまう。このデッドラインがいつなのか、現在詳細に解析しているところだが、同年4月末くらいだろうと見られている。
今後、上記の方法をパラメータを変えながら繰り返し実施していくが、こういった運用にはリスクも伴う。無理をして探査機を失ってしまっては元も子もない。そもそも、小惑星探査はアドバンストミッションだ。これを諦めたとしても、さらに長期間、探査機の運用を続けることができれば、得られる知見は大きいという判断もあり得る。
とはいえ、小惑星探査の価値が極めて高いというのも事実。デッドラインが近づくにつれ、プロジェクトチームは難しい判断を迫られることになりそうだ。
なお、そのほかのアドバンストミッションについてだが、窒化ガリウムを使った高効率パワーアンプによる通信は成功。高精度VLBI航法については、実験自体は問題なく終了しており、現在、データを解析しているところだ。
科学観測は、ジオコロナ(地球の周りを広く覆っている水素の層)の撮影を予定通り実施した。ジオコロナの全球観測は、アポロ16号以来、40年以上も行われていなかった。PROCYONには、このための観測装置「LAICA」を搭載。今回、アポロよりも広範囲な、50地球半径程度の撮影を行った。現在、データを解析中であるが、これほど広範囲の観測に成功したのは世界初とのことだ。
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