「はやぶさ」の電力制御は“いい感じの割り勘”方式?インターネプコン(1/2 ページ)

エレクトロニクス製造・実装技術展「インターネプコン ジャパン」の基調講演に宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授でシニアフェローの川口淳一郎氏が登壇。「『はやぶさ』プロジェクト発のスマートエネルギー技術」をテーマに、サーバ・クライアント間通信を必要としない電力制御装置の新方式を紹介した。

» 2015年02月16日 09時00分 公開
[長町基,MONOist]

 エレクトロニクス製造・実装技術展「インターネプコン ジャパン」(2015年1月14〜16日、東京ビッグサイト)では2015年1月16日、基調講演(ものづくりの未来をキーマンが語る)として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授でシニアフェローの川口淳一郎氏が登壇。「『はやぶさ』プロジェクト発のスマートエネルギー技術」をテーマに、サーバ・クライアント間通信を必要としない電力制御装置の新方式を紹介した。



photo 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授でシニアフェローの川口淳一郎氏

 川口氏は、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻博士課程を修了し、旧文部省宇宙科学研究所に着任。2007年4月〜2011年9月まで月惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタ(JSPEC/JAXA)、1996年〜2011年9月まで「はやぶさ」プロジェクトマネジャーを務めた。現在はJAXA宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)宇宙飛翔工学研究系の教授で、2011年8月からシニアフェローも務めている。

 「はやぶさ」探査機(以下、はやぶさ)は2005年に小惑星イトカワに到着し、その表面にある岩石質微粒子をサンプル収集した後、数々のトラブルを乗り越えて2010年に地球へと持ち帰った。月以外の天体に着陸した探査機が帰還したのは世界で初めての快挙だった。そのはやぶさのプロジェクトマネジャーを務めていたのが川口淳一郎氏だ。

photo はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワの微粒子(©JAXA)

 はやぶさは、電力を動力源とするイオンエンジンで航行した。一定の電力を、イオンエンジンに投入しなくてはならないが、機体各所に設けられている大量のヒーターの電力消費が時々刻々と変動することが、探査機設計上の大きな難点だったという。これを抑えるために、ヒーター電力を離散化し、実時間でその離散化された電力を詰め込む処理を行った。いわば宇宙船内におけるエネルギーマネジメントである。今回の講演では、将来の宇宙ビジョンとともに、この技術を応用した産業界から家庭へ向けた電力制御装置の新方式を説明した。

宇宙船内のエネルギーマネジメント

 宇宙は絶対温度(熱力学的温度)3度というとてつもなく冷たい空間である。そのためはやぶさをはじめ人工衛星にはたくさんのヒーターが搭載されている。そのヒーターに供給する電力をできるだけ抑えるため、平準化(ピークカット)を実現するデマンドコントロールが大きな課題となっている。そのため、はやぶさには限られた電力を有効利用する装置が搭載された。それを発展させたのが、それぞれの時点での全体の電力消費量を反映し、自動的に電力資源を割り当てる電力制御装置の新方式「サーバ・クライアント間通信を要しない、高速制御法」である。

 川口氏はこの電力制御方式について「例えば、たった1つの何かの量を制御するのに全個体との通信は必要かと考えた場合、答えはノーだ。1個体とサーバが双方向通信するのに0.1秒要すると考えると、10万個の個体との通信には1万秒を要する。1つの量しか制御しないなら、1つの情報の通信で達成され得ると考えるべきであろう。同報送信で済むなら、通信時間は個体数に関わらず0.05秒で足りることになるというのが、われわれが提案している方法である」とその考え方を紹介する。

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