高度化の中でも、最も大きな改良となる「静止衛星打ち上げ能力の向上」について、もっと詳しく見ていこう。この改良点は以下の6つだ。
長時間の慣性飛行(ロングコースト)を実現する場合、まず問題になるのは、燃料である液体水素の蒸発をいかに抑えるかだ。水素は沸点がマイナス253℃と極低温のため、非常に気化しやすい。少しの熱でも簡単に蒸発してしまうので、液体水素タンクの周りには通常、オレンジ色の断熱材が吹き付けられている。
蒸発した水素は燃料にならず、無駄になってしまう。この対策として、高度化では、液体水素タンクの表面を白く塗装し、太陽光の入射を抑える。これにより、水素の蒸発量を25%程度、削減することが可能だという。白色塗装は21号機で初めて実証を行い、第2段の飛行時間が過去最長となった26号機(小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち上げ)にも適用された。
軌道上を飛行中、酸化剤である液体酸素を使ってターボポンプの予冷を行うのだが、従来の着火前に一気に実施する方法だと流量が多かった。高度化では、長時間かけて少しずつ冷却する「トリクル予冷系統」を第2段エンジンに追加し、消費量を60%程度削減する。これについても、24号機で実証した後で、26号機で初めて適用した。
飛行時間が長くなるので、温度が下がりすぎる場所にはヒーターを追加したり、MLI(多層断熱材)を強化するなどの対策を施した。また太陽光で一方だけが温められないように、飛行中に機体を回転させる(バーベキュー・ロール)。この回転速度は、720秒間で1回転という、非常にゆっくりしたものだ。
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