「H-IIAロケット29号機」公開(後編)――“高度化”で大改造された第2段H-IIA Ver 2.0(1/4 ページ)

日本の基幹ロケット「H-IIA」が「高度化」と呼ぶ大型アップデートを実施する。“H-IIA Ver 2.0”として諸外国のロケットと渡り合うため、定められた3つの目標と、6つの着目すべき技術について解説する。

» 2015年09月04日 07時00分 公開
[大塚実MONOist]

 これまでも、H-IIAロケットは各号機で何らかの改良が続けられてきたのだが、29号機で適用された「高度化」は、その中でもかなり大きな変更である。「H-IIA バージョン2.0」と書くとちょっと大げさすぎるかもしれないが、204型がラインアップに追加されたとき以来の大きなアップグレードといえる。

 H-IIAロケットの“高度化”については前編(「H-IIAロケット29号機」公開(前編)――29号機で何が変わったのか)にて説明した。この後編では、高度化プロジェクトで開発された技術について、もう少し詳しく見ていくことにしよう。

高度化のミッションマーク 高度化のミッションマーク。搭載されているのは「はやぶさ」に似ているが「架空の衛星」とのこと

高度化プロジェクトの3本柱

 基幹ロケットの高度化プロジェクトでは、H-IIAロケットについて複数の改良が実施された。改良の目的は以下の3つだ。

  • (1)静止衛星打ち上げ能力の向上
  • (2)衛星搭載環境の改善
  • (3)地上設備の簡素化
高度化プロジェクトで実施される3つの改良 高度化プロジェクトで実施される3つの改良

 (1)については、前編で紹介した通りだ。第2段を改良し、慣性飛行可能な時間を従来の約1時間から約5時間に延長することで、静止衛星を静止軌道に「近い」軌道へ投入できるようになった。これで衛星側の燃料消費を抑え、衛星の寿命が向上する。また惑星探査ミッションに適用すれば、打ち上げウィンドウ(打ち上げ可能な時間帯)の拡大も可能になるという。

 この打ち上げ能力改善についてメリットがあるのは静止衛星の場合であり、軌道が異なる低軌道の打ち上げでは必要性が低い。コストアップを招くことにもなるので、全てのH-IIAロケットに適用されるわけではなく、オプション的に、必要に応じて適用する形になりそうだ。

 (2)は「衛星分離部」(PAF)の改良である。従来はロケットと衛星の分離機構に火工品(火薬で作動する部品で信頼性が高い)を使っていたため、分離時の衝撃が大きかった。これを排除することで、衝撃を現状の約4100Gから世界最高水準の1000G以下にする。この技術については、29号機には適用されておらず、その次のX線天文衛星「ASTRO-H」で実証を行う予定。

 分離時の衝撃が小さくなれば、衛星にとってはより「優しいロケット」になる。衛星メーカーにとっては、衛星を作りやすくなるというメリットがある。

低衝撃PAF分離試験の様子 低衝撃PAF分離試験の様子。上が衛星側、下がロケット側

 (3)では、ロケットに飛行安全用の航法センサーを追加した。従来、打ち上げたロケットは地上のレーダーで追跡し、計画通りに飛行しているか確認していたが、この機能をロケット側に持たせることで、レーダー設備が不要になり、打ち上げコストを削減できる。ただ、すぐに地上レーダーを廃止するわけではなく、29号機以降も何度か実証を続ける計画だ。

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