京都大学は、映像に酔うと、映像の動きを検出する脳部位(MT+野)の活動が右脳と左脳で乖離(かいり)するという現象を、脳機能イメージングを用いて発見した。車酔いや船酔いなどの動揺病が生じる仕組みの理解につながることが期待できるという。
京都大学は2015年5月26日、映像に酔うと、映像の動きを検出する脳部位の活動が右脳と左脳で乖離(かいり)するという現象を、脳機能イメージングを用いて発見したと発表した。同大大学院人間・環境学研究科の山本洋紀助教、キヤノンの宮崎淳吾研究員、明治国際医療大学らの研究グループによるもので、同日付で独脳科学誌「Experimental Brain Research」の電子版に掲載された。
映像酔いは近年、3Dなどの高臨場感映像の視聴時の弊害として問題となっている。その原因として、目からの視運動情報と内耳から伝わる体のバランス情報が矛盾することに起因するという、感覚矛盾説が通説となっている。しかし、その脳内過程は解明されておらず、矛盾が酔いに至る理由も不明とされていた。
同研究グループでは、矛盾する以前の脳での視運動情報の処理自体に着目。左脳と右脳にある視運動を処理する脳部位MT+野(エムティープラスや)は、機能的・解剖的に左右差があるため、映像酔いはMT+野の脳活動の左右差が一端となって、前庭感覚に関わる脳の領域を刺激することで生じる可能性を検討した。
研究では、機能的MRIを用いて、映像酔いを起こしやすい動画(酔動画)と起こしにくい動画(非酔動画)で脳活動の波形が左右でどのくらい違うのかを調べ、活動リズムの類似度(ピアソンの相関係数)を算出した。その結果、酔動画を見て実際に酔った人の場合、非酔動画の場合には右脳と左脳の活動の相関が高いが、酔動画を見ると相関が大きく低下することが分かった。酔わなかった人では、相関の低下は認められなかったという。他の視覚野についても調査したが、MT+で観測された相関の低下は確認されなかった。つまり、映像に酔った人のMT+野でのみ、左脳と右脳で活動が乖離することが明らかになった。
今回発見されたMT+野の変調現象は、映像酔いの神経メカニズムを理解する糸口になるという。今後、MT+野と他の脳領域とが映像酔いを生じる過程でどう関わり合っているのかを明らかにすることで、映像酔いや車酔い、船酔いなどの動揺病が生じる仕組みの理解が進むことが期待できるという。また、MT+野の乖離を減少させることで、快適な映像を提供する技術開発につながる可能性もあるとしている。
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