ただし、アップルはグーグルのようにデータ収集に主軸を置いている企業ではない。あくまで主軸は「端末」である。
だとすると、革新的な車載システムの実現に注力していると考えるのが妥当ではないだろうか。車載システムは、製造段階において自動車に組み込むこともできれば、アフターマーケットとしての展開も可能だ。また自動車メーカーや年式を問わず、幅広く導入できるなど、あらゆる「ガワ(クルマ)」を魅力的かつ革新的なものに変えることができる。
自動車関連メーカーから技術者を引き抜いているのも、カメラ搭載車を街中で走らせているのも、クルマ特有の技術やノウハウを含むさまざまな情報を収集し、その可能性を見極めていると考えられる。そして、それらを車載システムに活用することで、アップルはクルマを製造することなく革新的な「端末」を創り出しサービスの幅を広げる。それによって、既存のアップル製品との連携を強化して互いの魅力を高めようとしているのではないだろうか。
このように、IT企業による自動車分野への参入目的はそのコアビジネスによって異なる。しかし共通しているのは、自動車の製造販売を主目的とした参入ではないため、自動車メーカーを脅かす直接的存在になるわけではないということだ。
ただしアップルやグーグルが握ろうとしているのは、クルマのコアとなる制御情報である。それを死守したい自動車メーカーとのせめぎ合いが本格化するのはこれからだ。
吉岡 佐和子(よしおか さわこ)
日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わったのち、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。
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