もう1つの背景事情としてEVが挙げられる。米国カリフォルニア州のゼロエミッション車(ZEV)規制や、欧州で進む排気ガス規制などの要因により、EVに対する需要は高まっている。EVでは、自動車の心臓部であるエンジンがモーターに、燃料のガソリンはバッテリーに充電する電力に置き換わる。このことによってさらに電動化・電子化が進み、自動車特有の機械技術への依存度が大幅に減少したことから、クルマと電子機器メーカーとの親和性は高くなったといえる。
ガソリンエンジン車と比べて満充電状態から走行できる距離が短いEVにとって、電池の残容量や走行可能距離、そして今はまだ設置数の少ない充電器の所在把握といった「情報」を扱う上で、スマートフォンなどのIT機器はうってつけだ。
ライフサイクルという視点でみると、消費者の買い替え頻度はスマートフォンの2〜3年に対して、自動車は10年前後である。また製品の開発期間は、スマートフォンが半年〜数年で済むが、自動車は少なくとも5年はかかるといわれている。このギャップを埋めるために、IT企業が持つノウハウが徐々にクルマに浸透しているといえる。
これらのことから、ITとクルマは親和性が高く、IT企業にとってはクルマが新たなビジネスチャンスになっていることが伺える。では、昨今話題のウーバーやグーグル、そしてアップルといった企業は、クルマのどこにビジネスの価値を見いだしているだろうか。実は各社ともその参入方法や目的は異なるのである。
まず、自動運転車市場への参入を目指しているのがウーバーであり、その目的はウーバーのコアである「配車サービス」の「低コスト化」だ。それは同社CEOの発言からも明白である。
2014年5月にウーバーCEOのTravis Kalanick(トラビス・カラニック)氏は、「ウーバーが高いといわれる理由は、クルマに乗っている他の奴(=ドライバー)のためにお金を払っているからだ。ドライバーがいなければ、ウーバーでどこへ行くのも安くなる」と語っている。
同年9月の「TechCrunch Disrupt SF 2014」に登壇したカラニック氏は、世界で毎月5万人ペースの雇用を創出しているとして、自社の価値と社会貢献度をアピールした。だが一方で別のインタビューでは、自動運転車の導入によるドライバーの失業について「ドライバーと話すことがあれば、『先の話とはいえ、これが世の中が向かう方向であり、ウーバーがそっちに向かわなければ潰れるのだよ』と伝えるだろう」と発言し、時代の流れに適応していく姿勢を示している。加えて自動運転車は「究極の安全車」とされていることから、「安全性の確保」も担保できることにも言及している。
ウーバーは、これまで調達した莫大な資金を自動運転車に投資する予定だが、実はその投資家にグーグルも名を連ねている。またウーバーのサービスには「Google Maps」が活用されているなど、両社は密接な関係にあったといえる。
しかしウーバーの自動運転車開発の発表と同日に、グーグル幹部が独自の配車サービスの展開について言及している。この確執と取れる動きも、両社が注目されているゆえんなのである。
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