――XYZprintingが現在開発しているフードプリンタの特長を教えてほしい。
新井原氏 われわれが現在開発中のフードプリンタは、実際に家庭の中で使ってもらえることを想定したパーソナル向けのフードプリンタだ。
家庭での利用を考えた際、時間を掛けて高精度のものを出力するというより、大まかなシルエットを素早く出せることが重要。この恐竜型のクッキー生地は、わずか数十秒で出力できてしまう。ちなみに「フードプリンタ本体でクッキーが焼けるのか?」と聞かれることがあるが、できるのは生地を出力するまでだ。また、クッキーのような小麦粉ベースのものだけでなく、チョコレートやジャムにも対応しているので、パンに絵を描くことも可能だ。
新井原氏 対応する材料は、「小麦粉ベース(小麦粉、バター、砂糖)」「チョコレート」「ジャム」の3つで、シリンダーに材料を詰めて使用する。この試作機は最大3本のシリンダーをセットできるので、色違いの材料や異なる材料の組み合わせで楽しむことができる。ちなみに、通常の3Dプリンタでいう造形テーブルには、市販のクッキングシートやパンなどを敷いて出力を行う。
新井原氏 今回用意したものは、世界で2台しかない試作機のうちの1つだ(原稿執筆時点)。内部の機構自体は3Dプリンタと非常によく似ている。
製品正面の上段から、タッチパネル部、シリンダー格納部、取り出し部で構成される。タッチパネル操作であらかじめ用意されたレシピを選択し、レシピにあった材料をシリンダーにセットしてプリントボタンを押せば出力が開始される。試作機はあらかじめデータを用意してあるが、商品化される際はフードプリンタ専用のソフトウェアを提供する予定で、ユーザー自身でSTLファイルを準備できれば、オリジナルのお菓子が作れてしまう。
例えば、ケーキなどに載せるオリジナルのネームプレートやオブジェをフードプリンタで出力したり、毎朝食べる食パンに子どもが喜びそうなキャラクターのイラストなどを描いたりといった利用が考えられる。また、市販のお菓子用デコレーションキットを使って、アレンジを加えるといった楽しみ方もあるだろう。
――フードプリンタが抱える現状の課題は?
新井原氏 造形できるカタチという点では、基本的にサポート材という考えはないので中空形状などは不向きで、作れる形状はある程度制限される。また、バターやチョコレートを材料として扱うので、適温での出力が必要で環境条件によって出力結果が変わってしまう可能性がある。現状、材料の供給自体がどうなるかまだ確定していないが、もしユーザー自身が材料を用意する場合、配分や混ぜ方などによっても、うまくできる/できないの差が生まれてしまうかもしれない。
さらに、販売についても課題がある。取り扱うものが人の口に入る食品になるので、展開予定の国ごとの法規制やルールを1つ1つクリアする必要がある。計画通り、フードプリンタがハードウェアとして完成しても、材料供給をどうするかなど、検討すべきことがまだ多く残っている。現在、2015年中の発表が行えるよう急ピッチで準備を進めている状況。価格帯については、まだ正確に決まっていない。
クリアすべき課題はまだあるが、将来フードプリンタは、3Dプリンティング技術の可能性をさらに広げ、料理の在り方そのものを変える大きな存在になり得る。もしそうなれば、将来「3Dプリンタ」という言葉がフードプリンタのことを意味するようになるかもしれない。
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