建設用3Dプリンタ技術で業界の変革を目指すPolyuse。共同創業者で代表取締役の大岡航氏に、同社の目指すビジョンや新たなルール作りに関する取り組み、最新の施工事例などについて話を聞いた。
建設物は基本的に一点物であり、大掛かりで多様かつ繊細な作業が求められることから、人手に頼らざるを得ない部分が多い。そんな建設業界の生産性向上に挑むのが、国内で唯一、建設用3Dプリンタ技術を総合的に開発するPolyuseだ。同社は土木や建築分野で3Dプリンタの適用事例を重ねる一方で、来春(2025年春)には量産型の建設用3Dプリンタ「Polyuse One」の受注販売を開始することを発表した(プレスリリース)。
Polyuse 共同創業者で代表取締役の大岡航氏に、同社の目指すビジョンや新たなルール作りに関する取り組み、最新の施工事例などについて聞いた(聞き手:筆者)。
――Polyuseの事業について教えてください。
大岡氏 Polyuseは2019年6月に創業した建設用3Dプリンタシステムなどの開発およびサービス提供を行う会社だ。「建設用3Dプリンタで人とテクノロジーの共存施工」をビジョンに掲げている。建設業界では、技能労働者の高齢化や資材価格の上昇、インフラの老朽化、さらには自然災害の多発といった課題を抱えており、人手に頼ったまま現状を維持し、社会資本を守っていくのはかなり厳しいと考えている。
現在、建設DX(デジタルトランスフォーメーション)が業界として推進されているが、設計や施工管理、検査、業務全般でのIT化が主流だ。しかし、構造物や建築物の施工自体の変革に取り組まなければ、本質的なDXの実現は難しい。われわれは社会インフラに応える高品質なコンクリート構造物を製造でき、かつ施工における省力化を実現できるような建設用3Dプリンタ技術などの開発に取り組んでいる。
――Polyuseは全国の公共事業における3Dプリンタの適用実績を重ねています。
大岡氏 国土交通省や自治体の発注する、3Dプリンタを適用した土木工事の事例のうち9割以上が当社によるものだ。現在、当社の事例は都道府県の数で見ても40件を超えている(図1)。国土交通省が運用する新技術活用のための情報提供システム「NETIS」には、3Dプリンタ分野として唯一Polyuseの技術が登録されている。これもわれわれの取り組みの成果が認められた証だといえる。
――Polyuseにはどのようなメンバーが集まっているのでしょうか。
大岡氏 現在40人ほどの規模で、建設用3Dプリンタの研究開発に不可欠な各領域に精通したエンジニアや研究者が在籍している。建設用3Dプリンタの機体および機構部分を設計する機械や電気系出身者を中心としたハードウェアチーム、建設用3Dプリンタ用の材料を研究開発するマテリアルチーム、建設用3Dプリンタ用のデータや積層アルゴリズムを研究開発するソフトウェアチーム、そして、実際の公共工事などで安全に使用していくための技術指導の他、発注者や設計者と品質、構造計算などの協議を行うグロースチームからなり、ほとんどのメンバーが建設やコンクリート系の出身者ではない。
――建設業界からの転職ではないのですね。
大岡氏 Polyuseにはモノづくりが大好きなメンバーが集まっている。当社では建設業界以外からの人材採用を積極的に推進している。そもそも、これから業界を支える40代以下の年齢層や建設業界を選ぶ若手は年々減っている。建設業界が“モノづくりの面白さ”や“生涯を通じて学べる環境”であることを、Polyuseの事業活動を通じて積極的に発信していきたい。われわれが建設業界に実際に飛び込み、未来の建設業界を創造していくことで、建設業界で挑戦する人々が増えることを期待している。
――ご自身はいくつもITベンチャーを立ち上げてきました。なぜ建設分野に取り組もうと思ったのでしょうか。
大岡氏 もともと経営に対して大きな目標や考えがあるわけではないまま学生起業を経験し、これまでIT関連のスタートアップ3社の立ち上げに関わってきた。だが、事業を推進していく中で、それらの事業は「自分でなくてもできるな」と考えるようになった。また、某SNSのようにインフラ化したサービスも存在するが、ITの大半は「より便利になるもの」であり、なくなっても生活が立ち行かなくなるわけではない。一方、建設業界はレガシー産業ともいわれるが、あらゆる経済活動の基盤となっている。「一人の人間として社会に対して何ができるのか」と考えるようになったタイミングでPolyuseを創業する機会に恵まれた。
――開発している3Dプリンタについて教えてください。
大岡氏 われわれはハードウェア、マテリアル、ソフトウェアを一気通貫で自社開発している(図2、図3)。また、国内の各種法令やガイドラインに準拠した独自の施工方法を確立し、それを社会実装にまで持っていくことを念頭に置いて開発している。出力の方式は樹脂などで使われる押出式だが、材料の性質は異なるため機構部分も大きく違っている。材料については、コンクリート標準示方書やJIS規格、その他各種構造物で定められる示方書などにのっとったコンクリート材料としての強度、耐久性、耐力性などに応えられる専用材料を開発している。また、3Dプリンタおよび周辺機器類が全国どこでも容易に運搬できることも大きな特長になる。道路や河川、港湾、林道、農地、ため池など、あらゆる場所で必要とされるコンクリート構造物の印刷を前提に開発している。
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