今、パーソナル3Dプリンタ市場で勢いのある企業の1つが、新金宝グループ(New Kinpo Group)傘下のXYZprintingだろう。今回、新金宝グループのCEOとXYZprintingの会長を兼任する沈軾栄(サイモン・シェン)氏に、今後の製品戦略や3Dプリンタ市場の可能性、そして3Dプリンタ以外での展開について伺った。
「パーソナル3Dプリンタ」の低価格化は、ここ1、2年で急速に進んでいる。この流れを作っていると言っても過言ではない3Dプリンタメーカーの1社が、新金宝グループ(New Kinpo Group)傘下のXYZprintingだ。
同社は、2014年3月に熱溶解積層(FDM)方式パーソナル3Dプリンタ「ダヴィンチ 1.0」を発表し、「メーカー製の完成品が10万円以下どころか7万円以下で買える!」ということで大きな話題となった。そしてその勢いをそのままに、この1年間でデュアルヘッドの「ダヴィンチ 2.0 Duo」、3Dスキャナ機能内蔵の「ダヴィンチ 1.0 AiO」と立て続けにリリースしてきた(その後、ABS/PLA樹脂両対応も進めている)。さらに、2015年に入ると光造形方式の3Dプリンタ「ノーベル 1.0」を発売。市場では40〜60万円するといわれていた光造形方式の3Dプリンタを22万9800円(税込み)という低価格で実現し、注目を集めた。
そして、2015年4月――。同社からついに5万円を切るパーソナル3Dプリンタ「ダヴィンチ Jr. 1.0」が発売された。販売価格(税込み)は4万9800円で、パーソナル/ファミリー層をターゲットに、従来のダヴィンチシリーズよりもコンパクトになり、使い勝手も向上している。価格のインパクトはもちろんのこと、随所に家庭での利用を意識した改善がなされており、“単なる廉価版”ではないことがうかがえる。
さて、そんなパーソナル3Dプリンタ市場で勢いのあるXYZprintingとは、一体どのような企業なのだろうか。
ダヴィンチ Jr. 1.0の製品発表会が行われた2015年4月16日、台湾より来日した新金宝グループ CEO 兼 XYZprinting 会長 兼 XYZプリンティングジャパン 代表取締役の沈軾栄(サイモン・シェン)氏にインタビューする機会を得たので、ここぞとばかりに、いろいろな質問をぶつけてみた。XYZprintingの“顔”であるシェン氏は、一体どこまで答えてくれたのか?
――「ダヴィンチ Jr. 1.0」はどのようなコンセプトで開発されたものなのか。
シェン氏 ダヴィンチ Jr. 1.0は、家庭内や教育機関での利用を想定して、“誰でも操作がしやすい3Dプリンタ”というコンセプトで開発したものだ。利用経験のない初心者でも使える3Dプリンタのエントリーモデルを目指した。家庭内での利用という面では、地球環境に優しいPLA樹脂に対応した他、動作音の軽減や省電力化を図った。また、使い勝手の向上という点では、フィラメントのオートフィーディング機能の搭載やキャリブレーションの手間の軽減などがなされている。
これまでのダヴィンチシリーズは、どちらかというと新しいモノ好きで、既に個人でモノづくりを楽しんでいる方を対象とした製品だった。これに対して、ダヴィンチ Jr. 1.0は、「まだ高い」「難しそう」とこれまで購入を見送っていたような方にうってつけの製品だといえる。5万円を切る価格であれば「これなら買ってみよう」「子どもと一緒に使ってみよう」という方が増えるのではないだろうか。
シェン氏 近い将来、学校で3Dプリンタを活用した授業などが行われるようになれば、学校ではダヴィンチシリーズを、家ではダヴィンチ Jr.をといった利用環境が整ってくるかもしれない。
――「ダヴィンチ Jr. 1.0」の筺体をよく見てみると、使われていないフィラメントのガイド穴やファンの取り付け部などがある。また、樹脂を積層するエクストルーダの取り外しも非常に簡単になっている。ダヴィンチ Jr.の“シリーズ展開”の可能性はあるのか。
シェン氏 はい。今回のダヴィンチ Jr. 1.0はパーソナル/ファミリー向けの“標準モデル”という位置付けで展開していく。そして、近い将来、Wi-Fi搭載モデルやデュアルヘッドモデル(2.0 Duo)、さらには3Dスキャナ内蔵モデル(AiO)の投入も計画している。これ以上は詳しく言えないので、これくらいで勘弁してもらいたい(笑)。
――なぜこれほど短期間に新製品をリリースできるのか。
シェン氏 新金宝グループは、世界大手のEMS(電子機器生産受託サービス)としてコンシューマ製品、PC周辺機器、通信機器などを手掛けている。その中にはプリンタも含まれる。私自身が新金宝グループのCEOとXYZprintingの会長を兼任することで、グループの資産や人的リソースを横断的にフル活用できる体制を築くことができた。これによりスピーディーな製品開発、市場投入を実現することに成功。われわれには、EMSとしてモノを作る力、材料や部品を調達する力がある。先ほどの質問にもつながるが、筺体の共通設計なども当社の強みの1つといえる。
また、製品の企画段階から私自身が主導して3Dプリンタの製品化を実現している。3Dプリンタ市場の成長はまだまだこれからなので、単純にどこかの企業やビジネスモデルをマネすればいいというわけではない。だから今の段階では、責任者である私自身がとことん考えて、模索していかなければならない。
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