100年以上変わらなかった工法を変える 加速するコンクリート3Dプリンタ開発3Dプリンタの可能性を探る(1/3 ページ)

コンクリート3Dプリンタ開発の現状や本格的な展開に当たっての課題、3Dプリンタ活用の将来像などについて、コンクリート工学が専門で3Dプリンティング技術の研究にも取り組む東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授の石田哲也氏に話を聞いた。

» 2024年08月13日 09時00分 公開
[加藤まどみMONOist]
東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授の石田哲也氏 東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授の石田哲也氏

 コンクリートを出力材料とする3Dプリンタの開発が着々と進められている。2018年に始まった3Dプリンタによる国内の施工件数は加速度的に増加しており、累計で130件を超えた。コンクリート3Dプリンタ開発の現状や本格的な展開に当たっての課題、3Dプリンタ活用の将来像などについて、コンクリート工学が専門で3Dプリンティング技術の研究にも取り組む東京大学大学院工学系研究科 社会基盤学専攻 教授の石田哲也氏に話を聞いた(聞き手:筆者)。

巨大なダムの強度や劣化はミクロスケールの状態とリンクしている

――まず先生のご専門についてお聞かせください。

石田氏 ダムや橋梁などのようなコンクリート構造物のシミュレーション技術を研究している。コンクリートは材料の種類や比率、作り方などによってかなり耐久性が変わる。また圧縮に強いコンクリートと引っ張りに強い補強材(主として鉄筋、最近は炭素繊維やアラミド繊維も)が互いに助け合いながら使用される。コンクリートは内部にミクロの穴がある多孔体で、穴の形状や連結度合いなどにより大きく性能が変わる。ナノスケールの現象が、数百m(メートル)の巨大な構造物のひび割れや強度とリンクしている。

 また、構造物が使用される期間は百年単位になる。コンクリート構造の変形/破壊、多孔体内部の物質の流れ、化学反応など異なる物理/化学方程式を統合して扱う研究を行っている。このような空間/時間のマルチスケールを考えた、複数現象を連成するマルチフィジクスシミュレーションによって、現実に起こる変形や破壊、劣化などさまざまな現象をコンピュータ上で再現することに取り組んでいる(図1)。われわれのシミュレーション技術は、例えば埋設LNGタンクを持つ東京電力(現在はJERA)富津火力発電所(千葉県)において、建設コストを半分に抑えるといったことに貢献している。

コンクリートのマルチスケール/マルチフィジクス解析 図1 コンクリートのマルチスケール/マルチフィジクス解析[クリックで拡大] 提供:石田氏

コンクリートは人類が2番目に多く使うエコ材料

――3Dプリンタでは現状は主にモルタルが使われているのでしょうか。

石田氏 コンクリートは基本的にセメント、砂、砂利、水と空気からなる材料だ(図2)。砂や砂利は「骨材」といわれ、5mm以上の粗骨材を含むものをコンクリート、5mm以上のものを含まないものを特に「モルタル」と呼ぶ。セメントと水や空気が混ぜ合わされたペーストが、接着剤の役割を果たす。セメントの主原料は石灰や粘土などだ。これらを混ぜて焼き、砕いてできる粉末がセメントである。水を混ぜると、水とセメントの水和反応によって硬化する。

コンクリートとモルタル 図2 コンクリートとモルタル[クリックで拡大] 提供:石田氏

 3Dプリンタには通常モルタルを使用するが、デンマークのCOBODが開発しているような大型のプリンタであればノズルも大きく、5mm以上の骨材を含んだコンクリート材料を出力できる。

――コンクリートは製造時に二酸化炭素を出すといわれます。

石田氏 コンクリートは生産時に二酸化炭素を出すため、エコではないといわれることがあるが、実は非常にエコな材料だ。これは広く知られてほしい。地球上で水の次に多く使われている資源で、特定の地域に偏在することがなく、1kg当たり10円程度と非常に安価だ。水と混ぜるだけで自由な形状を作ることができ長持ちする、非常に使い勝手のよい材料といえる。

 さらに、日本ではゴミを燃やしてセメントを作っている。国内ではセメント原料の半分近くが廃棄物で、その量はざっと年間2800万t(トン)になる。これは東日本大震災で発生した瓦礫(がれき)とほぼ同じ量だ。セメントの生産がなくなれば日本はゴミであふれてしまうだろう。

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