100年以上変わらなかった工法を変える 加速するコンクリート3Dプリンタ開発3Dプリンタの可能性を探る(2/3 ページ)

» 2024年08月13日 09時00分 公開
[加藤まどみMONOist]

土木建設分野では機動性の高い現場組み立て方式が開発中

――日本における3Dプリンタの開発、活用はどのような状況でしょうか。

石田氏 會澤高圧コンクリートや日揮のように海外から輸入する企業もある。一方、自社開発も増えている。スーパーゼネコンの清水建設や大林組、大成建設などでは自社開発している。ゼネコンのものは非常にスペックが高い。またスタートアップのPolyuseも3Dプリンタを開発している。Polyuseが開発するプリンタは現場で組み立てる方式で、機動性が非常に高くコストを比較的低く抑えることができる。

――日本の建設3Dプリンタの開発は海外より遅れているのでしょうか。

石田氏 そんなことは全くない。日本も開発や社会実装に向けた動きが非常に活発だ。研究開発のスタートこそ遅かったが、施工数は2018年ごろより加速度的に増えている。現在は130件を超える数になっている。

――日本ではどのようなニーズがあるのでしょうか。

石田氏 土木分野で型枠を作る作業の代替が進められている。建設現場では型枠にコンクリートを流し込んで構造物を作るが、現地の地形に合わせて、傾斜や曲面などを含む複雑な形状の型枠を木で作る。非常に精度が必要な作業だ。だが、型枠大工をはじめとする技能労働者が高齢化している。特に災害時の道路や河川などの復旧は迅速な作業が必要だが、待遇を上げても型枠大工が手配できない例も出始めている。

 Polyuseは地方の建設会社と協力して、土木分野の埋設型枠(コンクリート打設後も取り外さず構造物の一部として使用される型枠)などの事例をどんどん積み重ねている。3Dプリンタを使っているのは、目新しいからではなく、型枠大工の減少という喫緊の課題を解決できるからだ。

積層面同士はくっついていなくてもよい

――大手ゼネコンではどのように活用しようとしていますか。

石田氏 清水建設では「ミチノテラス豊洲」の事例のように、複雑な曲面を持つ柱の型枠を3Dプリンタで出力するといった施工を行っている(図3)。従来の型枠と比べて、美観に優れたものを作ることができる。

清水建設による3Dプリンタの施工事例「ミチノテラス豊洲」 図3 清水建設による3Dプリンタの施工事例「ミチノテラス豊洲」[クリックで拡大] 提供:清水建設

 また、地震の多い日本では、この鉄筋コンクリートと3Dプリンタ製型枠という組み合わせが最も合理的だ。3Dプリンタで鉄筋コンクリートの型枠を作ることは、鉄筋コンクリートを積み重ねた輪で締めることに等しい。極端なことをいえば、隙間なく重なった輪でしっかりと締めていれば、輪同士が接着していなくても、地震時に横向きの力がかかって生じる損傷を減らすことができる。シミュレーションでも、上下のフィラメント同士の接着が弱くても、壊れ方に大きな違いがないことを確認した(図4図5)。

3Dプリンタで外殻を構築したデモ橋脚(大成建設の実験) 図4 3Dプリンタで外殻を構築したデモ橋脚(大成建設の実験)[クリックで拡大] 提供:石田氏
3Dプリンタ製型枠と鉄筋コンクリートを組み合わせた場合の破壊シミュレーション 図5 3Dプリンタ製型枠と鉄筋コンクリートを組み合わせた場合の破壊シミュレーション(大成建設による実験を数値解析で検証)[クリックで拡大] 提供:石田氏

 一方、輪自体には強度が必要なので繊維を混ぜている。このような材料は通常のコンクリートと比べて高価になるが、構造物全てではなく型枠にだけ使用し、内部には従来の材料を使えばよい。型枠作業が不要になることなどと併せて、トータルではコストはそれほど高くならない。

――3Dプリンタの出力物の性能は、使う人の技量によって変わりませんか。

石田氏 現状のコンクリートも、しっかりと充填(じゅうてん)して硬化中は十分な水を供給するなど、きめ細かな施工方法が必要になる。3Dプリンタにおいてもその点は同様だ。そこで3Dプリンタの適用が多い埋設型枠について、出来上がりの品質が確保できるように、施工に際して押さえるべきポイントを土木学会で議論している。「建設用3Dプリンタによる埋設型枠設計・施工指針」を作成する委員会で委員長を務めており、2024年度内に指針を出す予定だ。

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